「静かな退職」に共感する若手は7割 パーソルイノベーション、AIを活用した人材マーケット分析
働く環境が大きく変化している中、「静かな退職」という言葉が若手社員の間で注目を集めている。パーソルイノベーション株式会社が運営する副業人材マッチングサービス『lotsful(ロッツフル)』が7月31日に発表した調査結果によると、全国の企業に勤める20〜49歳の会社員のうち、実に72.7%が「静かな退職」という考え方に共感していることが明らかになった。
この「静かな退職」とは、「キャリアアップや昇進などを目指さずに必要最低限の仕事をこなすはたらき方」を指し、特に新卒入社後3〜5年未満の若手層では89.5%が共感すると回答。従来の成果主義や昇進ありきのキャリア観に対する違和感が、若手世代を中心に広がっていることがうかがえる。
共感の背景には「ワークライフバランスを重視したい」(45.3%)という理由が最も多く、続いて「昇進・昇格に関心がない・したくない」(33.6%)という声が挙がった。実際に管理職への昇進意欲があると回答した人は全体の37.4%にとどまり、過半数が昇進に対して積極的ではない傾向が見て取れる。
現在「静かな退職」を実践していると回答した人は全体の37.7%で、特に若年層・女性を中心に広がりを見せている。注目すべきは、「静かな退職」によって生まれた時間の活用方法だ。調査によると、64.3%の人が空いた時間を副業などの社外活動に活用しており、主体的かつ戦略的にキャリアをデザインする姿勢がうかがえる結果となった。
「静かな退職」に共感する人々が本業に求める役割として、「安定した収入源」(46.6%)が最多で、次いで「ワークライフバランスの取りやすさ」(40.6%)が続いた。特に実際に「静かな退職」を実践している人は、「副業・社外活動の基盤」や「キャリアアップの土台」として本業を捉える傾向があり、本業と副業のバランスを意識した戦略的なキャリア設計が進んでいることがわかる。
副業や社外活動を通じて本業に対する気持ちに変化があったかという問いに対しては、「本業への期待は変わらないが、気持ちにゆとりが生まれた」(53.6%)が最多となった。これは、静かな退職が本業を手放すことではなく、より持続可能な関わり方を模索する手段として捉えられていることを示している。
このような働く環境の変化は、日本が直面する深刻な社会課題と密接に関連している。2040年問題として知られる「人口減少」、「デジタル化の遅れ」、「担い手不足」などの課題は、特にエッセンシャルワーク領域において顕著に現れている。
パーソルイノベーションは、こうした社会的背景を受け、2024年12月にエッセンシャルワーク領域の人材紹介サービスを立ち上げ、2025年4月に『ピタテン』として本格展開を開始した。医療従事者やドライバーなどの現場作業従事者の転職支援を通じて、社会課題の解決に取り組む姿勢を明確にしている。
『ピタテン』は、「若年層×未経験者」専門の転職エージェントとして、正社員経験がないフリーターや既卒、第二新卒など若年層の方々が新たなキャリアのスタートラインに立つことを支援している。34歳以下の正社員未経験者や第二新卒の方で、高卒以上の方が利用対象だ。
サービス名の由来は、「求職者の良いキャリアに向けた最初の一歩をピタッと伴走する」というサービスビジョンを体現したもので、ロゴにはキャリアアドバイザーが求職者にピタッと寄り添っていることを表現したキャラクターを配置し、親しみやすさや安心感を演出している。
『ピタテン』の大きな特徴は、テクノロジーを活用した手厚いサポート体制にある。求職者の登録後の初期対応では、AIが自動で求職者にコールし、キャリアアドバイザーとの面談日時まで調整する仕組みを導入。さらに、面接対策においては、AIアバターによる模擬面接を実施し、その録画データや文字起こしをもとに、キャリアアドバイザーが具体的なフィードバックを提供している。
5月には、株式会社PeopleXとの協業により、生成AIを活用した「AI模擬面接」サービスの提供も開始された。PeopleXが提供する対話型AI面接サービス「People XRecruit」を活用し、一問一答形式ではなく、面接を受けている側の回答に応じた「深掘り質問」も行われるため、転職希望者はより高度な練習を積むことが可能となった。
一般的な転職サービスでは初回面談が30分から60分程度のところ、『ピタテン』では90分ほどかけて求職者の強みやアピールポイントをじっくりとヒアリング。その内容をもとに、履歴書や職歴経歴書をキャリアアドバイザーが代行して作成し、企業に推薦・提出している。書類選考が通過すると、企業との面接に向けて60分の面接対策を2回から3回実施する徹底ぶりだ。
こうした手厚いサポート体制により、『ピタテン』経由での入社決定者数は着実に増加しており、企業からも「丁寧なマッチングで質の高い人材を紹介してもらえる」といった評価を得ている。将来を見据え、納得した上で入社してもらうことで、長期的な定着を目指している。
パーソルイノベーションの一連の取り組みは、単なるビジネス展開を超えて、日本社会が直面する構造的課題への対応として大きな意義を持つ。エッセンシャルワーク領域の人材不足は、医療、物流、製造といった生活に欠かせない分野で深刻化しており、2040年に向けてさらなる担い手不足が予想されている。
「静かな退職」現象は、従来の雇用モデルの限界を示すと同時に、働く人々がより柔軟で持続可能なキャリア形成を求めていることを物語っている。この変化を単純に否定的に捉えるのではなく、新たな人材活用の機会として積極的に受け止め、適切な支援体制を構築することが重要だ。
事業責任者である星野里季氏は、「困っている求職者は本当にたくさんいる。もっと多くの方に寄り添えるよう支援の幅を広げ、市場を拡大しながら”若年層キャリア支援のリーダー”として走り続けたい」と意気込みを語っている。
今後、働き方の多様化がさらに進む中で、企業は従来の一律的な人事制度から脱却し、社員一人ひとりの多様なキャリア観に寄り添った制度設計が求められる。AI技術を活用した効率的な人材マッチングと、人を中心に据えた丁寧な支援体制の構築が、2040年問題を乗り越えるための重要な要素となるだろう。
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