通俗科学

「おたまじゃくし」分子雲があぶり出す中質量ブラックホールの存在 – 国立天文台

「おたまじゃくし」分子雲があぶり出す中質量ブラックホールの存在

研究成果

中質量ブラックホールと「おたまじゃくし」分子雲の想像図
中質量ブラックホールと「おたまじゃくし」分子雲の想像図。(クレジット:慶應義塾大学)

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天の川銀河の中心近くで発見した「おたまじゃくし」分子雲の運動を解析し、質量が太陽の10万倍程度の中質量ブラックホールの存在をあぶり出すことに成功しました。超巨大ブラックホールの成長過程を理解するために、重要な知見となる発見です。

天の川銀河をはじめ、ほとんどの銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から数百億倍にも及ぶ超巨大ブラックホールが存在しています。このような超巨大ブラックホールは、より小さな質量のブラックホールが合体して形成されたと考えられています。しかし、形成の途中過程に存在するはずの太陽の数百から数十万倍の質量の中質量ブラックホールは、確実な検出例がまだありませんでした。

慶應義塾大学や神奈川大学、国立天文台の研究者らから成る研究チームは、国立天文台が運用に参加するジェームズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡(JCMT)や、国立天文台 野辺山の45メートル電波望遠鏡で得られた観測データから、天の川銀河の中心方向に特異な分子雲を発見しました。この分子雲は周囲の分子雲の群れから明らかに孤立しており、分子雲内のガスの速度分布が「おたまじゃくし」のような形をしているのが特徴です。この分子雲内の各点の運動を詳しく解析したところ、質量が太陽の10万倍もある大質量の天体の周りを公転していることが示されました。ところが、その公転軌道の中心に存在すると考えられる天体は、見つかりません。これらの証拠から、中心にある天体の正体は中質量ブラックホールである可能性が高いと考えられます。

今回の研究の中心となった慶應義塾大学の大学院生の金子美由起(かねこ みゆき)さんは、今回の発見を「これまで発見された中質量ブラックホール候補天体の中で、最も確度が高い」と語ります。この「おたまじゃくし」分子雲は、中質量ブラックホールの重力によって加速されたと考えられるのです。

今回発見された中質量ブラックホールは、天の川銀河中心の超巨大ブラックホールからごく近い距離にあり、やがて超巨大ブラックホールに飲み込まれてしまうでしょう。この研究から、超巨大ブラックホールの成長過程を理解するために重要な知見を得ることができたと言えます。研究チームは今後、アルマ望遠鏡を用いて公転軌道上の分子ガスの構造を明瞭に捉え、その中心天体、つまり中質量ブラックホール候補天体の素性に迫る予定です。中質量ブラックホール本体からのさらなる情報が得られる可能性も期待されます。

この研究成果は、Kaneko et al. “Discovery of the Tadpole Molecular Cloud near the Galactic Nucleus” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2023年1月10日付で掲載されました。

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クレジット:「国立天文台」NAOJ

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