明かされつつある太陽系外縁の構造―すばる望遠鏡とニューホライズンズの20年の挑戦―
すばる望遠鏡の広い視野を活用した探査で、カイパーベルトの外側に未知の天体集団が存在する可能性が示されました。太陽系の成り立ちを知る上で重要なこの研究成果は、太陽系外縁部をさらに外へと進むニューホライズンズ探査機と、すばる望遠鏡との国際協力によって得られたものです。
太陽系外縁天体のうち、太陽からの距離が30-55天文単位(1天文単位は地球と太陽の平均距離)にあるものを「カイパーベルト天体」と呼びます。米国航空宇宙局(NASA)のニューホライズンズ探査機は、人類史上初めて、太陽系外縁天体の表面を間近から観測するという重大な任務を担い、2006年に打ち上げられました。2015年に冥王星に近接しその表面を詳細に観測した後、2019年にはカイパーベルト天体の一つであるアロコスに近接し観測を行いました。
探査機に搭載されているカメラは視野が狭く、自らカイパーベルト天体を発見することはできません。ここで活躍するのが広い視野を持つすばる望遠鏡です。すばる望遠鏡の広視野カメラでカイパーベルト天体を多数見つけ出し、その中から、探査機が近接観測できる天体や、少し遠くても観測できる天体を絞り込んでいったのです。
2004年から2005年に行った主焦点カメラSuprime-Cam(シュプリーム・カム)による観測では、24個のカイパーベルト天体を発見することができました。さらに、この観測の間に開発された移動天体検出のための手法を活用して、2020年からは超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)を使ったより深い観測を開始し、2023年までの観測で239個の太陽系外縁天体を発見しました。
「HSCによる観測で最もエキサイティングだったのは、既知のカイパーベルトを超える距離にある天体が11個も見つかったことです」と、研究チームの吉田二美(よしだ ふみ)博士(産業医科大学、千葉工業大学惑星探査研究センター)は語ります。55-70天文単位の距離にある天体は少ない一方で、70-90天文単位あたりに一群の天体があるように見えたのです。このような天体群の谷間は他の観測では報告されていなかったものです。これが確かならば、原始太陽系星雲は、これまで信じられていたよりもはるかに大きかったことになり、太陽系の惑星形成過程の研究に影響を与えるかもしれません。
本研究で発見した天体の正確な軌道を決定するため、研究チームはHSCを用いた観測を継続しています。遠方天体の発見とその軌道分布を明らかにすることで、太陽系の形成史を知り、太陽系外惑星系と比較して普遍的な惑星形成を理解する一端となるでしょう。ニューホライズンズ探査機は現在、太陽から60天文単位の位置にあってさらに外側へと向かって進んでいます。すばる望遠鏡とニューホライズンズ探査機が、カイパーベルトの先に何を発見するのか、研究チームは楽しみにしています。
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明かされつつある太陽系外縁の構造 -すばる望遠鏡とニューホライズンズの20年の挑戦-
すばる望遠鏡
クレジット:「国立天文台」NAOJ