リュウグウの砂に太古の「濃い塩水」痕跡、生命の材料を濃縮か 京大など解明
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ持ち帰った小惑星リュウグウの砂試料から、かつて母天体内部に存在した「濃厚な塩水」の痕跡と、そこに高濃度で集積した窒素化合物を発見したと、京都大学などの共同研究グループが発表した。生命の構成材料となった複雑な有機分子が宇宙空間でどのように生成されたのかを探る上で、極めて重要な成果となる。
本研究は、京都大学白眉センターおよび大学院理学研究科の松本徹特定助教をはじめ、自然科学研究機構分子科学研究所の湯澤勇人主任技術員、広島大学の小池みずほ准教授、東京科学大学の癸生川陽子准教授、京都大学の野口高明教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の矢田達主任研究開発員、高輝度光科学研究センター(JASRI)の菅大暉研究員と伊奈稔哲研究員、物質・材料研究機構(NIMS)の佐久間博主任研究員、愛媛大学大学院理工学研究科の白勢洋平講師らによる国際共同研究グループによるもの。分析結果は2026年9月3日に公表され、英科学誌「Nature Astronomy」に同年8月27日付で論文(題目:Ammonium-bearing clays and multiple nitrogen species linked to late-stage brines of Ryugu’s parent body)がオンライン掲載された。
研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」の高輝度な放射光X線や赤外線分光、電子顕微鏡を組み合わせてリュウグウの砂試料を精密に観察した。その結果、炭酸ナトリウムや岩塩といった水に溶けやすい塩結晶の周辺に、窒素を含む塩の結晶である硝酸塩やアンモニア、さらに炭素と窒素が結合した多様な有機窒素化合物が密集して存在していることを突き止めた。
リュウグウは約45億年前に形成された母天体の破片が集まってできたとされる。母天体の内部にはかつて液体の水が流れていたが、時間の経過に伴う凍結や蒸発によって水分が徐々に減少。その過程で残された液体が濃厚な塩水へと変化し、塩結晶の析出とともに各種の窒素化合物が高度に濃縮されたと考えられる。
リュウグウの試料からは、これまでの初期分析などによりアミノ酸や核酸塩基といった生命の基盤となる有機物が確認されてきた。今回の発見により、水分の減少に伴う濃縮機構が母天体内に存在したことが示され、アンモニアなどの反応性に富む物質が高濃度で接触することで、より複雑な有機分子へと至る化学進化が力強く促進されたシナリオが浮かび上がった。
京都大学の松本徹特定助教は、「リュウグウの砂に含まれる塩の結晶は、湿気にさらされるだけでも溶けてしまうほど変化しやすく、地上で雨風にさらされる隕石からはほとんど見つかっていません。宇宙から直接持ち帰ったリュウグウの砂を分析したことで、母天体内部の塩水環境が、少しずつ明らかになってきました。今後、NASAの探査機が持ち帰った小惑星ベヌーの試料の分析も進み、リュウグウとの共通点や違いが明らかになれば、生命の材料となる物質が宇宙でどのように、どこまで作られたのか、そしてそれらが地球へ運ばれた可能性があるのかについて、さらに理解が深まると期待しています。」と述べている。
