Art Week Tokyo 2025、過去最多の来場者で閉幕――「ポスト真実時代のリアル」とは何かを問う39の美術空間
東京の秋を彩るアートの祭典「Art Week Tokyo 2025」が11月17日に閉幕した。今年のテーマは「What is real?(現実とは何か)」――デジタル技術と情報社会が曖昧さを増す「ポスト真実」の時代において、アートがどのように現実を見つめ直すかを問いかけた。
主催者発表によると、今年は過去最多となる39のギャラリーと美術館が参加し、期間中の来場者数は延べ8万人を超えた。前年を大きく上回る記録だ。
東京都内各所で開催された展示では、国内外のアーティストたちが、現実と虚構、記録と記憶、そしてテクノロジーと人間の関係を多面的に表現した。
六本木のMori Art Museum(森美術館)では、AIが生成した“夢の断片”をリアルタイムで可視化するインスタレーションが注目を集めた。作品の前で足を止めた観客の一人は、「AIが描いたイメージなのに、なぜか懐かしさを感じた」と語り、現代社会における“リアリティ”の多層化を感じさせた。
また、青山や中目黒の小規模ギャラリーでは、若手作家による実験的な展示も目立った。廃棄されたスマートフォンを素材に彫刻を制作した作家は、「現代人の“記憶の器”としてのデバイスにこそ、リアルな感情が宿る」と語る。その言葉どおり、作品の前では多くの人がスマホを手にしながら立ち止まり、現代生活とアートの境界を考え込む様子が見られた。
今年のArt Week Tokyoは、単なる美術展の枠を超え、都市全体をアートの舞台とする試みがさらに拡大。
参加施設を巡る専用シャトルバス「Art Mobile」は4ルートに拡充され、交通の便を高めた結果、より多くの来場者が複数エリアを横断的に楽しめるようになった。特に海外からの観光客が増加し、英語、中国語、韓国語によるガイドツアーも人気を博したという。
一方、デジタル社会への批評的視点を持つ展示も多く発表された。渋谷のNANZUKA UNDERGROUNDでは、「デジタル偽装」と題された共同企画展が開催され、SNS上で拡散される虚構と真実の境目を写真作品で表現。作家の一人は「事実とフェイクの区別がつかなくなった時代だからこそ、アートが“感覚の真実”を示せる」と語った。
会期中には、アーティストトークやシンポジウム、キュレーターによるガイドセッションなども連日開催され、アートを通じた対話が活発に行われた。特に「リアリティを再定義する」という討論イベントでは、哲学者やメディア研究者も登壇し、「人間の知覚こそが真実をつくる」という視点が多くの聴衆を引き込んだ。
東京の多様な文化を背景に、Art Week Tokyoは今や国際的な現代アートのハブとしての存在感を強めている。来年2026年のテーマは未発表だが、主催者によれば「現実と想像力の新しい関係性」を探る企画を検討中とのこと。
現代の混沌を鏡のように映し出すアートの旅は、来年もまた多くの人々を“リアル”の探求へと誘うだろう。
