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通信料金バトル直前! MNO各社の決算から2021年の戦略を読み解く -ライブドア



●動かぬ消費者、動く経済圏
移動体通信事業者(MNO)サービスを手掛けるNTT(NTTドコモ)、KDDI、ソフトバンク、楽天の各社は、1月末から2月にかけて四半期決算を発表しました。
コロナ禍が収まらず通信料金値下げ競争も激化する中、消費者動向は3月以降に始まるMNO各社の20GBプランのサービス開始を待つ「様子見状態」にあったように思われます。

消費者流動性が低くなるほどにMNOの経済圏効果は大きくなると予想されますが、今回の四半期決算ではその傾向がハッキリと現れました。

MNO各社が通信料金値下げの先に見据える戦略とは何か。
四半期決算からその動向を見極めてみましょう。


嵐の前の静けさとなったMNO各社の四半期決算

●通信事業の落ち込みをエコシステムで支えたいNTTドコモ
業界最大手であるNTTドコモは、NTTの完全子会社となって初めての四半期決算発表となりました。

2020年度第3四半期決算によれば、第1〜第3四半期連結業績における営業収益は3兆5131億円で前年同期比-0.1%とわずかに減収だったものの、営業利益は8218億円で前年同期比+4.3%の増益となり、減収増益となりました。

業績の内訳を見ると、通信事業が大幅な減収減益となり大苦戦しているものの、スマートライフ事業がその下げ幅をカバーする形で踏ん張りを見せているという状況です。
コロナ禍において十分健闘しているとも受け取れますが、まったく楽観視できる数字ではありません。

スマートライフ事業とは、dポイントを軸とした経済圏関連のサービスや金融サービスです。
冒頭でも書いたように、通信事業で消費者動向が停滞する中、生活関連消費でのポイント利用に増加が見られます。

NTTドコモによれば、dポイントクラブ会員数は約7967万で前年同期比8%の増加、dポイントカード登録数も約4852万で前年同期比19%の増加となっています。

この堅調な伸びを通信事業の停滞からの脱出に利用しようと、同社はオンライン契約専用の新料金プラン「ahamo」(アハモ)の先行エントリーキャンペーンを強化しています。
・機種変更を伴うahamoへのプラン変更
・新規契約もしくは他社からのMNP
これらに該当する場合、付与するポイント数を3000ポイントから6000ポイントへ倍増するとしています。


コロナ禍による店舗営業の落ち込みに加え、巣ごもり生活の長期化がモバイル通信利用量の低下と端末買い控えなどを引き起こしている

さらに、
・dカードボーナスパケット特典
ahamoの支払いをdカードもしくはdカード GOLDに設定すると契約データ通信量が5GB追加される(合計で25GBになる)

・dカード GOLDご利用額10%還元特典
dカード GOLDでの支払い設定で毎月のdカード GOLDの利用金額100円(税込)につき、10%分のdポイントを進呈(上限300ポイントまで)

これらの施策も合わせて打ち出しており、非常に明確なポイント経済圏強化の戦略を推し進めています。


好調なdポイント経済圏とahamoを絡め、起死回生を狙う

●堅調ながらもpovoに不安を抱えるKDDI
KDDIは、これまで同様に堅調な成長を続けています。
201年3月期 第1〜第3四半期連結業績は、売上高が3兆9238億円で前年同期比+0.5%の増収、営業利益は8710億円で前年同期比+3.2%の増益となり、コロナ禍の厳しい経営の中で増収増益を堅持しています。

KDDIの堅実な成長要因でも、やはり大きなウェイトを締めているのがライフデザイン領域です。
同社が「成長領域」として掲げているだけあり、その売上高は2021年3月期(第1〜第4連結)では1兆2900億円を予定しており、2022年3月期には1兆5000億円規模にまで成長させる計画です。

とくに成長目覚ましいのが金融・決済関連の取扱高です。現在、前年比で1.4倍近い成長を続けており、2021年3月期も前年比1.4倍の6.5兆円を見込んでいます。
au Payカード会員数やポイント・決済加盟店数も急速に増加しており、経済圏の拡大・強化が非常に順調である状況が見えます。


通信会社各社はいよいよ金融企業の様相を呈してきた

NTTドコモほどではないにしても、若干厳しい色が見えるのは通信事業本体です。
モバイル通信関連ではUQ mobileやMVNOへの回線卸による収入を含めても前年同期比で若干のマイナスとなっており(-19億円)、通信料金値下げを見越したユーザーの動きの鈍さを感じます。

KDDIがその打開策として打ち出しているのが20GBプランの「povo」(ポヴォ)ですが、現状では他社に料金や話題性でわずかに遅れを取っている感もあります。
povoは発表当初、月額2480円と他社よりも安く設定した料金や、オプションを自由に付け替えられる「トッピング」システムを武器にNTTドコモやソフトバンクよりもアドバンテージを持っていました。

しかし、
・ソフトバンクのLINEMOが月額2,480円に揃えてきたことで、LINE利用時のカウントフリー(LINEギガフリー)がない点などから見劣りする部分が増えた
・NTTドコモが3月1日にahamoの月額料金を2,700円に急遽改定し、料金的なアドバンテージが薄くなった(5分間通話無料をつけた場合ahamoのほうが安くなる)
このような他者の動向により、現在auユーザーである人以外には訴求力が弱いという印象です。

各社の新料金プランは数百円程度の違いですが、その数百円を切り詰めて魅力をアピールしてきたKDDIにとっては、今後どのようにpovoの魅力を宣伝していくのか試されることになりそうです。


自分の使い方に合わせてオプションを選ぶという使い方も、シンプルさを求めるユーザーからは面倒に思えるかもしれない

●グループ企業の強みを活かし邁進するソフトバンク
成長戦略に全方向での強さを感じるのはソフトバンクです。
2021年3月期 第1〜第3四半期連結業績では、売上高が3兆8070億円で前年同期比+5%の増収、営業利益は8416億円で前年同期比+6%の増益と、大きく増収増益を達成しています。

何より強さを感じるのは、ヤフーなどのECサイトや流通、法人などの堅調さに加え、他社が苦戦したコンシューマ向けのモバイル通信事業でも、わずかながらも増収増益を達成したことです。

ソフトバンクは全事業セグメントで増収増益を達成しており、元々多角経営戦略であったことも功を奏し、コロナ禍をものともしない、むしろピンチをチャンスに変えていく強さがあります。

通期業績予想の進捗率も非常に高く、巣ごもり需要やテレワークによる個人・法人両面での通信需要の増加分を上手く取り込めている状況が見えます。


ヤフーと法人の伸び率が巣篭もり需要の大きさを物語っている

3月1日にはソフトバンクグループ傘下のZホールディングスがヤフーとLINEの経営統合を行い、新生Zホールディングスとして新たなスタートを切りました。
Eコマースから広告事業、流通事業、各種オンラインサービスなどで国内最大規模になるとしており、同じソフトバンクグループの子会社同士としてもソフトバンクとの連携がより強まるものと思われます。

コロナ禍によって大きく変革した社会情勢をいち早くとらえ、その潮流を引き寄せた経営手腕と戦略は高く評価すべきところです。


ECのヤフー、SNSのLINE、そして通信のソフトバンク。盤石の体制が組み上げられた

ソフトバンクとLINE(Zホールディングス)の連携を象徴するのが20GBプランの「LINEMO」(ラインモ)でしょう。

ソフトバンクがLINEモバイル事業を吸収するかたちで実現したLINEMOは、LINE利用時の通信量がカウントされない「LINEギガフリー」が最大の特徴です。
グループの持つ武器を最大限に活かした新料金プランは、LINE関連サービスを多用する若年層ほど魅力的に映ることは間違いなく、ソフトバンクユーザー以外にも強い訴求力を持ちます。

家族割(みんな家族割+)のカウント対象外といった弱点もないわけではありませんが、巧みなポイントサービスなどでデメリットをカバーしてくることは容易に想像できます。

コロナ禍沈静化後の社会がどのように変わるのかにも左右されそうなだけに、ソフトバンクの勢いがこのまま2021年を牽引していくのか、その点にも注目が集まります。


通話無料サービスはオプション扱いだが、LINEの通話機能が使い放題であるため、敢えて通話無料オプションを付けなくても良いのが利点の1つだ

●1GBまで0円の衝撃。事業の健全性に不安が残る楽天モバイル
戦略的にも事業的にも不透明さが目立つのが楽天(楽天モバイル)でしょう。

楽天が発表した2020年度第4四半期決算では、売上収益は1兆4555億円で前年同期比+15.2%の増益を達成し、
モバイル事業や物流、投資事業などの損益を除いたNon-GAAP 営業利益でも1489億円で前年同期比+37.6%と大幅な増益を達成しています。
しかし、モバイル事業などの損益分を含めたNon-GAAP 営業利益では-1027億円と大きく赤字となっており、前年同期比でも-1978億円となりました。

最大の赤字要因はモバイル事業への先行投資です。
2020年4月に月額2980円で使い放題という衝撃価格を武器にMNOとして正式サービスを開始した楽天モバイルですが、
・通信エリアの拡充で苦戦
・au回線のローミングエリアでは格安料金のメリットを十分に享受できない
このような状況から、事業の拡大において足踏み感があります。

通信業界に限らず、赤字覚悟の先行投資は新規参入事業者の宿命でもあります。
しかし、圧倒的な低料金を武器としてユーザー確保を目指してきた同社に、MNO各社が20GB/月額2480円〜2700円で勝負を挑んできたことでアドバンテージが大きく削がれ、厳しい戦いを強いられています。


すべての事業での細かな営業努力を塗りつぶすようにモバイル事業への先行投資が負担となっている

MNO他社が新料金プランで100円単位のせめぎ合いを見せる中、楽天モバイルは状況打開のため、その上を行く衝撃的な価格で再び価格破壊を目論みます。
それが「1GBまで0円(無料)」を謳った「Rakuten UN-LIMIT VI」です。

月額2980円で使い放題は変えずに料金体系を従量化し、1GBまでは0円(契約1台目のみ)、3GBまで月額980円、20GBまで月額1980円として、仮想移動体通信事業者(MVNO)と同等もしくはそれ以上の安さを実現しました。

しかしながら、さらなる料金引き下げは先行投資の回収をさらに遅らせる要因となりかねません。

とくに1GBまで0円という「呼び水」は、これまで超低料金運用に主眼を置いていたMVNOユーザーを惹きつける一方、
回線の0円維持(もしくは1GB以内での0円運用)を目指すという使い方を生みかねず、今後の収益性や採算性に大きな不安を残すものとなっています。


先着300万契約まで1年間無料のキャンペーンの効果で契約数は順調に伸びているが、採算面では現在のところ成果ゼロに等しい

自社経済圏(楽天エコシステム)の強みを強調する楽天としては、楽天モバイルの先行投資分は他事業で十分にカバーできるため、赤字が増大してでもユーザー数を獲得することが現時点での至上命題であるというスタンスです。
実際、楽天全体での収益性や経営状況は非常に健全であり、とくにEC事業や物流事業、さらに金融関連事業は絶好調と言えます。

これらの好調な事業を支えに通信事業での先行投資をさらに増やし、懸念となっている通信エリアの拡充を一気に進める計画です。


巨大経済圏を作る楽天にとって、通信事業は数ある事業の1つに過ぎない

こういった、楽天ならではとも言える経営構造と事業形態を、どう評価するかが大きなポイントです。

通信事業は経済圏へ顧客を誘導するための窓口として機能しますが、
・収益性は度外視して良いと考えるのか
・ある程度採算性を求めたほうが良いのか
・MVNOに回線卸を行う必要が出てきた場合、どうするのか
このような問題が山積している状態です。

自ら価格破壊を大きく掲げ、強気の料金戦争を仕掛けた楽天モバイルですが、採算を度外視した戦略であれば0円でも赤字でも「何でもあり」のサービス提供が可能となります。
しかし、このようなサービス提供は、不当廉売などと見られる可能性もあります。

先行するMNO各社に短期間で追いつくためにも攻勢をかけざるを得ない楽天および楽天モバイルは、2021年もMNO業界を撹乱する風雲児となりそうです。


先行投資の名のもとに膨らみ続ける営業損失はまだまだ止まりそうにない

●通信料金の戦いからサービスの戦いへ
以上、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのMNO 4社の四半期決算を駆け足で解説しました。

各社ともに連結業績では増益を達成しているものの、その内訳や企業の「お家事情」は大きく異なっています。
そのような中で出揃った20GBの新料金プランと楽天モバイルの料金プランは、各社の異なる思惑をそれぞれの戦略へと導くカギとなります。

NTTドコモは浮上しない通信事業を再び浮かび上がらせる起爆剤として。
KDDIはライフデザイン領域事業を推進するエンジンとして。
ソフトバンクはグループ企業による強固な連携の象徴として。
楽天モバイルは自社のエコシステムへの顧客を誘導する窓口として。

いずれにも共通しているのは、もはや通信事業単体で勝負する時代ではなくなったという点です。

ポイント経済圏や金融、EC、流通など、自社のありとあらゆる事業と業態を通信で結びつける。通信を連結の基点としているからこそ、通信事業だけでの収益性や採算性を考える時代ではなくなってきていると言えます。

2021年はこうした構造変化への動きがさらに加速し、ポイントサービスやEC、金融系事業との連携が強くなっていくものと思われます。

通信サービスを手頃な低価格で提供しつつ、そこで自社サービスを利用してもらう。
2021年のMNOの戦いは、通信料金ではなく各種サービスの内容と充実度が主戦場となるのかもしれません。

執筆 秋吉 健





提供(C)ライブドアニュース

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