Pale Blue社とJAXA、「はやぶさ・はやぶさ2」の技術成果の活用と、新たなタンク開発による、超小型電気推進機事業に関する共創活動を始動
株式会社Pale Blue(共同創業者 兼 代表取締役:浅川 純、以下「Pale Blue」)と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長:山川 宏、以下「JAXA」)は、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(以下、J-SPARC)」(※1)の枠組みのもと、超小型電気推進機事業(※2)を創造する「事業コンセプト共創活動」を始動します。
©JAXA/Pale Blue
【J-SPARC共創活動の内容】
JAXAの保有する「はやぶさ・はやぶさ2」の開発・運用で培った知見、JAXAが進める電気推進機向けの低圧タンクに関する研究開発成果、また、Pale Blueの保有する電気推進機の開発・運用で培った知見及び事業ノウハウに基づき、共創活動を展開します。
Pale Blueは、JAXAが「はやぶさ・はやぶさ2」の開発・運用で獲得したマイクロ波カソード技術(※3)を活用し、衛星コンステレーション等で市場拡大が期待される300W級電気推進機を、新たな製品として開発し、事業化を目指します。
JAXAは、「はやぶさ・はやぶさ2」で培った世界最先端の電気推進技術情報の提供、支援を行うとともに、特許出願中のMOF(Metal-Organic Frameworks/金属有機構造体)(※4)の技術を用いて、新たな低圧タンク(※5)開発を進めます。本低圧タンクの開発は、次世代の多孔性材料として期待される金属有機構造体MOFに特化した京都大学発スタートアップ企業である株式会社Atomis社(代表取締役CEO:浅利 大介、以下「Atomis」)と連携して行います。
そして、Pale Blueは、JAXAの低圧タンクの成果を活用し、事業展開中の30W級電気推進機の更なる能力の改善を目指します。
本事業コンセプト共創活動を通して、JAXAは新たな研究開発に挑戦し、その成果活用の最大化を推進し、Pale Blueは超小型電気推進機の改善や、新たな事業創出を目指します。また、JAXAは、改善された本電気推進機を活用した、将来の超小型衛星ミッションの検討を進めていきます。
【J-SPARC共創活動の背景】
Pale Blue創業メンバーらは、東京大学にて、超小型衛星向けにキセノンを推進剤とした30W級電気推進機の宇宙実証を行ってきました。宇宙寿命や高圧ガス特有の取り扱い難易度の高さに直面し、安全性が高く、かつ持続可能なエネルギー資源である水を推進剤とした30W級電気推進機を開発し、2020年にPale Blueを創業しました。
Pale Blueは、衛星コンステレーション等で市場拡大が期待される300W級電気推進機を実現するため、上記30W級電気推進機の開発実績に基づくとともに、カソード技術の改良が必要と考えました。今回、JAXAとの対話を通じて、JAXAが保有する「はやぶさ・はやぶさ2」に搭載されたマイクロ波カソードの技術成果を活用することで、開発リスクを低減し、早期に新規市場獲得を目指す計画を構築しました。
JAXAは、将来の超小型衛星による深宇宙探査ミッションを実現するためには、30W級電気推進機の寿命性能を高め、また高圧ガス特有の取り扱い難易度と構造質量を低減する必要があると考え、MOFを用いた低圧・軽量な新たなタンク開発を進めてきました。今回、Pale Blueとの対話を通じて、JAXAが低圧タンクを開発し、その成果を、Pale Blueが事業展開中の30W級電気推進機に活用することで、JAXAは低圧タンクの開発成果の早期社会実装を、Pale Blueは30W級電気推進機の能力の効率的な改善を目指す共創活動のアイデアを生み出しました。
※1:「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」
J-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)は、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出する共創型研究開発プログラムです。2018年5月から始動し、これまでに約40のプロジェクト・活動を進め、民間事業者によるVR、食、教育、エンタメ、通信事業の事業化(商品化・サービスイン)を実現しています。事業コンセプト共創では、マーケットリサーチ、事業のコンセプトの検討などの活動を、事業共同実証では、事業化手前の共同フィージビリティスタディ、共同技術開発・実証などの活動を行います。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/
※2:「超小型電気推進機事業」
30Wは、深宇宙探査機の軌道制御用主推進機、フォーメーションフライトによる重力波や赤外線天文ミッション用推進機への応用が期待されています。300Wは、地球低軌道のコンステレーション衛星の軌道制御用推進機として期待されています。
※3:「マイクロ波カソード技術」
「はやぶさ」を通じて世界で初めて宇宙実証された電子源です。マイクロ波放電によりプラズマを生成し電子ビームを出します。イオンエンジンでは宇宙機電位を保つための中和器として使われています。
※4:「MOF 金属有機構造体(Metal-Organic Framework)」
多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)とも呼ばれ、金属イオンと有機分子が特殊な配列で並び、ナノレベルの小空間を多数構成する有機無機ハイブリッド材料です。空間を利用して気体分子や低分子を選択的に吸着、吸蔵、分離、反応させることができ、次世代多孔性材料として様々な用途での産業化に向けた研究が進んでいます。
※5:「低圧タンク」
金属有機構造体(MOF)を用いて高圧ガスに該当しない10気圧以下の低圧タンクです。数kg未満の少量のガスを、効率的に貯蔵でき、射場作業を簡便化し管理コストを下げることが期待されています。
<株式会社 Pale Blue 共同創業者 兼 代表取締役 浅川 純 コメント>
当社では創業当初から水を推進剤とした30W級電気推進機の実用化に取り組んでおり、開発及び商用化に成功しています。今後の更なる事業拡大のための300W級電気推進機の実現、及びJAXAが目指す超小型衛星による深宇宙探査ミッションに資する超小型電気推進機の実現、に向けて、世界をリードする、月崎先生をはじめとしたJAXAの電気推進機研究チームと共創活動を行えることを非常に嬉しく思います。電気推進機の技術を発展させ、人類の可能性を拡げ続けます。
<JAXA 宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 准教授 月崎 竜童 コメント>
金属有機構造体MOFを使ったガス貯蔵方法は、真空から大気圧にかけて多くのガスを吸着・放出できるため電気推進機をはじめとする真空分野とは非常に相性の良い技術です。高圧ガス保安法の規制を受けず、安全かつ容易に推進剤を充填することで、超小型衛星の推進系に貢献できることを嬉しく思います。また「はやぶさ2」では拡張ミッションに入り、エンジン性能の限界に挑戦しています。ここで得られた知見を、超小型衛星のエンジンの寿命改善に役立てていきたいと思います。
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(c) 宇宙航空研究開発機構(またはJAXA)- 掲載URL