通俗科学

終着点はブラックホール?―100億年の宇宙の旅―


すばる望遠鏡で撮影した天の川銀河の中心領域(約3秒角四方)。本研究の対象となった恒星「S0-6」(青の丸)は、巨大ブラックホール「いて座A*」(緑の丸の位置)から約0.3秒角離れた位置にある。(クレジット:宮城教育大学/国立天文台)

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天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールを周回する恒星を、すばる望遠鏡を用いて観測した結果、この恒星の年齢は100億歳以上であり、天の川銀河の近くにあった矮小(わいしょう)銀河で生まれた可能性が高いことが分かりました。天の川銀河中心の巨大ブラックホールの近傍にある恒星が銀河の外で生まれた可能性を、初めて観測的に明らかにした研究成果です。

私たちが住む天の川銀河の中心には、質量が太陽の400万倍にも及ぶ天体「いて座A*(エースター)」が存在しています。この天体を周回する複数の恒星の運動からいて座A*の質量を明らかにし、いて座A*が巨大ブラックホールである証拠を示した研究は、2020年のノーベル物理学賞に輝きました。ところが、巨大ブラックホールの近傍では、強い重力のために恒星の形成が困難であると考えられていることから、いて座A*の周囲の恒星の素性に注目が集まっています。

宮城教育大学をはじめとする複数の機関の研究者から成る研究チームは、いて座A*から約0.3秒角離れた恒星「S0-6」に着目しました。すばる望遠鏡の補償光学装置(AO)と近赤外線分光撮像装置(IRCS)を用いた8年間にわたる観測から恒星の運動を求め、S0-6が3次元的にいて座A*のすぐ近くにあることを明らかにしました。さらに恒星本体を調べ、S0-6の年齢が100億歳以上であること、小マゼラン雲やいて座矮小銀河といった天の川銀河の周りを回る小さな銀河の恒星と組成がよく似ていることも分かりました。つまりS0-6の生まれ故郷は、過去に天の川銀河を周回していた矮小銀河である可能性が高いのです。

研究チームは、すばる望遠鏡の視力をより良くするための装置を開発し、2024年にはその装置でS0-6の特徴をより詳しく調べ、さらにいて座A*の近くにある他の恒星の素性も調べる予定です。チームの中心である宮城教育大学の西山正吾(にしやま しょうご)准教授は、「S0-6は本当に天の川銀河の外で生まれたのか。仲間はいるのか、それとも一人旅だったのか。さらなる調査で、巨大ブラックホールの近くにある恒星の謎を解き明かしたいと思います」と展望を語っています。

詳細記事

すばる望遠鏡



クレジット:「国立天文台」NAOJ

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