ブルガリア首相ジェリャズコフ氏が辞任 大規模反汚職デモ受け
ブルガリアのロセン・ジェリャズコフ首相は11日、全国で続く反汚職・反政権デモを受けて内閣総辞職を表明した。 数万人規模の抗議行動が首都ソフィアをはじめ各地で相次ぎ、政権の経済運営と汚職体質に対する不満が一気に噴き出した形だ。
デモの背景と経緯
ジェリャズコフ氏は、議会での不信任決議案採決を目前に控えたテレビ演説で辞任を発表した。 抗議行動は、2026年予算案で増税や社会保険料引き上げが打ち出されたことをきっかけに始まり、その後、物価高や賃金停滞への不満、長年解消されない汚職問題への怒りへと広がった。
10日夜にはソフィア中心部の議会周辺に数万人が集まり、「辞任を」「マフィアは出て行け」といったスローガンを掲げて行進した。 抗議参加者はレーザー光で国会議事堂に「辞任」「マフィア退場」「公正な選挙を」といった文字を投影し、非暴力ながら強い不満を示した。
権力者と汚職への不信
デモ参加者の矛先は、政界とビジネス界に強い影響力を持つ実業家・政治家のデリャン・ペエフスキ氏にも向けられている。 ペエフスキ氏の所属政党「権利と自由運動(DPS)」は少数与党連立を支える一角であり、「寡頭勢力が政権を支配している」との批判が一段と強まっている。
ペエフスキ氏は、米国から汚職を理由に制裁対象とされ、英国からも資産凍結などの措置を受けている。 抗議者の間では「政権が汚職ネットワークと決別できていない」との見方が根強く、政府が予算案を撤回した後もデモは収まっていない。
ユーロ導入を前にした政局
ブルガリアは2026年1月1日のユーロ導入を目指しており、今回の辞任は重要な節目を前にした政局の混乱となる。 汚職認識指数では欧州連合(EU)内で下位に位置し、1人当たり所得も域内で最も低い水準にとどまるなど、構造的な課題が積み残されたままだ。
同国は2021年以降、たびたび総選挙を実施しており、今回の内閣崩壊により、4年間で8回目となる選挙に向かう可能性も指摘されている。 左派系のルメン・ラデフ大統領は、SNSで「街頭で示された民意は事実上の不信任だ」として、議員に対し「自由な判断」を求めていた。
ジェリャズコフ政権は今年1月に発足したばかりで、短命政権に終わったことになる。 大統領は今後、暫定政権の指名や解散総選挙の是非など、憲法に基づき対応を判断するとみられる。
政党間の対立が続けば、汚職対策や司法改革、ユーロ導入準備といった課題が一段と遅れる懸念もある。 抗議者の間では「今回は政権交代だけでなく、政治のやり方そのものを変えなければ意味がない」との声が広がっている。
