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騙されて命を落とす:台湾で詐欺被害者が自殺に追い込まれる現実

台湾の活気ある都市や静かな郊外の奥深くで、目に見えない疫病が人々の命を奪っています。それは暴力や病気ではなく、「詐欺」です。投資詐欺、恋愛詐欺、オンライン詐欺がかつてないほど急増し、被害者は財産を失うだけでなく、絶望のあまり命を絶つケースも後を絶ちません。その被害額は膨大で、被害者の物語は胸を締め付けます。警鐘は鳴らされているものの、多くの場合、手遅れになるまで兆候は見逃されてしまうのです。

詐欺に包囲される台湾

台湾の警察庁や内政部が主導する詐欺対策当局は警告を発しています。昨年だけでも、台湾の市民はあらゆる種類の詐欺で2,395億台湾ドル(約737億円)もの損失を被りました。これは台湾のGDPの1%に相当し、国家的な危機と言っても過言ではありません。

最も多い詐欺の種類は、なりすまし、投資詐欺、恋愛詐欺、当局者を装った詐欺です。銀行振込が主な支払い手段として悪用されており、資金の追跡や回収が非常に困難になっています。被害者のうち、損失を取り戻せたのはわずか6%。約3割の被害者は、手続きの煩雑さや当局への不信感から、被害届すら出していません。

しかし、これらの数字の背後には、実際に人生を狂わされた家族や高齢者、主婦、会社員などの存在があります。彼らは金銭的だけでなく、精神的にも深刻なダメージを受けているのです。

王(ワン)一家の悲劇:希望が絶望に変わるとき

台中市・豊原区の蒸し暑い7月の夜、最年少の息子が仕事に現れないことを不審に思った警察が家のドアをこじ開けました。そこで目にしたのは、国中を震撼させた光景でした。60代の両親と3人の成人した子ども、計5人の家族全員が自殺していたのです。炭火と4通の遺書には、借金の重圧と絶望が綴られていました。

王一家は、長女の美容学校時代の同級生という信頼できる人物から、金投資詐欺に巻き込まれました。最初は15万元(約70万円)の金購入から始まり、少額の配当で信頼を得た後、さらに多額の投資を勧められました。やがて自宅を担保に借金し、闇金から高利で借り入れるまでに。詐欺グループから「契約違反」などと脅され、借金は500万元(約1,730万円)に膨れ上がりました。

遺書には「金投資詐欺に騙された」「借金が雪だるま式に膨らんだ」「問題を解決できず、家族で自殺することに決めた」と記されていました。経済的破綻だけでなく、詐欺グループや闇金業者による脅迫、社会的孤立、恥辱が一家を絶望に追い込んだのです。

専門家によれば、台湾で現在蔓延する詐欺は特に巧妙で、経済的に困窮する人々の「一発逆転」心理を巧みに利用しています。詐欺師は最初に小さな利益を与えて信頼を築き、徐々に大きな投資を勧めます。詐欺だと気づいた時には、被害者は財産だけでなく、社会的信用や人間関係も失い、孤立無援の状態に。

「自分で投資を決めたのだから仕方ない」と周囲から責められることも多く、被害者は恥辱と罪悪感、絶望感に苛まれます。特に高齢女性や退職者は、被害を打ち明けたり、警察に相談したりすることをためらいがちです。王一家も市議会議員に相談しましたが、法的支援や返済計画、裁判所の差し止めなど、提供された支援は「焼け石に水」でした。

恋愛詐欺と「豚殺し」詐欺:愛が武器になる

投資詐欺が被害額でトップを占める一方、近年急増しているのが恋愛詐欺や「豚殺し」詐欺です。犯人は出会い系アプリやSNSで恋人を装い、数週間から数か月かけて被害者の信頼を得た後、架空の投資話や金銭的トラブルを持ちかけます。

被害者は、少額ずつ何度も送金させられ、気づいた時には全財産を失っていることも。精神的ダメージは極めて大きく、経済的破綻と裏切りのショックから自殺を選ぶケースもあります。金融監督管理委員会も恋愛詐欺の深刻さを警告していますが、恥ずかしさや精神的ショックから被害届が出されないケースが多いのが現状です。

詐欺被害者の精神的苦痛は計り知れません。多くは屈辱感、不安、孤独感に苛まれ、財産だけでなく、家族や職場、社会的地位も失います。王一家のように、絶望の果てに家族全員で自殺する事件も発生しています。

中山医科大学法医学部の高大成教授は「被害者は経済的困窮だけでなく、社会的支援の欠如にも苦しんでいる。『自分で投資を決めたのだから仕方ない』と突き放され、誰にも責任を問えず、無力感にさいなまれる」と指摘します。

しかし、詐欺組織の多くは国際的な犯罪ネットワークで、摘発は困難を極めます。中には、東南アジアの詐欺拠点で人身売買された「加害者=被害者」も存在し、摘発や救済の現場は複雑化しています。

専門家は、台湾の詐欺問題解決には多角的な対策が不可欠だと指摘します。

  • 市民教育の徹底:詐欺の手口や相談窓口を広く周知し、早期発見・早期相談を促進
  • 金融機関との連携強化:不審な送金の凍結や警察との情報共有を徹底
  • 被害者支援の充実:カウンセリング、法的支援、債務整理などの包括的サポート
  • 国際協力の強化:越境犯罪組織の摘発に向けた各国警察との連携

すでに被害に遭った人には「一人で悩まないで、必ず相談を」というメッセージが当局から発信されています。しかし、王一家の悲劇が示すように、支援は早期かつ決定的でなければ、救えない命があるのです。

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