ブロックチェーン国際

中国、ステーブルコイン利用を断固阻止:通貨主権と金融管理の徹底

中国政府は、マネーサプライと金融政策に対する国家の管理を維持するため、国内でのステーブルコインの使用を改めて厳しく禁止する措置を講じました。これは、ボラティリティの低いデジタル資産が、国内の厳格な資本規制を回避し、既存の金融システムに予期せぬリスクをもたらすことへの警戒感の表れです。特に、その大半が米ドルに連動している現状が、中国の通貨主権に対する「実存的な脅威」と見なされています。

中央銀行の譲れない一線:暗号資産は違法な金融活動

中国人民銀行(中央銀行)をはじめとする複数の規制当局は最近の会議で、ステーブルコインを含む暗号資産に関連するすべての活動は、「違法な金融活動」に該当すると改めて強調しました。

暗号資産は、中国国内において法定通貨としての法的地位を一切持たず、市場で支払い手段として使用することはできません。この断固とした姿勢の背景には、2021年に発動された暗号資産の全面禁止令があります。当局は、暗号資産の投機的な取引が再燃し、金融リスクと新たな課題をもたらしていると警告しています。

ステーブルコインは、ビットコインのような価格変動の激しい暗号資産とは異なり、米ドルや人民元などの法定通貨の価値にペッグ(連動)されるよう設計されています。価格の安定性から、特に国際送金や越境決済において、従来の金融機関を介さない安価で迅速な決済手段として、世界的に急速に普及しています。世界的に見ると、ステーブルコインの年間送金量はすでに大手クレジットカード会社を上回る規模に達しており、その市場規模は今後数年でさらに数十倍に膨らむと予測されています。

「ドル建て」ステーブルコインへの強い懸念

中国当局が最も強く警戒しているのは、現在流通しているステーブルコインの**99%**が米ドルに連動しているという事実です。

人民銀行総裁を含む当局者は、米ドル建てのステーブルコインが資本規制を容易に回避する手段となり、中国から海外への資本流出を加速させることを深く懸念しています。さらに、この種のデジタル資産が普及することは、米ドルの国際的な支配力を一層強固にし、「人民元の国際化」という中国政府の長期的な戦略を根本から損なうことにつながると見ています。

ある当局関係者は、ドル建てステーブルコインが「世界の金融安定性に対する脅威」であり、特に開発途上国の通貨主権を侵害する可能性があると、強い言葉で警告しています。

香港を「実験場」とする二重戦略

一方で、中国政府のステーブルコインに対するアプローチは、一枚岩ではありません。

本土で厳しい禁止措置が敷かれるのとは対照的に、半自治的な金融センターである香港では、規制された形でのステーブルコインの発行・流通に向けた枠組みの整備が進んでいます。香港金融管理局(HKMA)はすでにライセンス制度を確立しており、来年初めにも少数の事業者に免許が付与される予定です。

この香港での動きは、中国本土のハイテク大手や国有企業までもが関心を寄せ、ライセンス取得を目指している状況です。北京は、香港をオフショア人民元建てステーブルコインの「実験場」と位置づけ、国内の管理体制に適合した形で、国際決済における人民元の役割を強化する可能性を模索しています。

しかし、この香港での「柔軟な対応」も、あくまで中国政府の管理下で行われるものです。当局は、最終的に本土でステーブルコインを導入するにしても、それはプライベートな(民間主導の)ものではなく、厳格に監視・追跡可能で、国家の統制を強化できるようなプログラム可能な設計になるだろうと、専門家は分析しています。

国営デジタル人民元(e-CNY)との関係

ステーブルコインへの強硬な姿勢の裏には、中国人民銀行が推進する**デジタル人民元(e-CNY)**の存在があります。

e-CNYは、政府が完全に発行・管理する中央銀行デジタル通貨(CBDC)です。中国政府は、民間発行のステーブルコインではなく、このe-CNYこそが国内の決済システムを近代化し、金融に対する国家のコントロールを強化するための最良の手段であると位置づけてきました。

しかし、デジタル人民元の国内での普及は、アリペイやウィーチャットペイといった既存の巨大民間プラットフォームに押され、今のところ限定的です。ステーブルコインを全面的に禁止することで、国民の資金が政府が管理するデジタル人民元へと向かうよう、金融環境を整える狙いもあると見られます。

中国のステーブルコインに対する断固とした「封鎖政策」は、単なる暗号資産への嫌悪ではなく、国家の金融主権、資本統制、そして米国の金融覇権に対抗するための包括的な戦略として捉えることができます。

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