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量子コンピュータの最前線 超電導量子チップの実物を富士通が展示 -ライブドア



量子コンピュータは指数的な計算速度の向上が期待されおり、早期の開発が望まれている。

材料や医薬品の開発、最適化問題などの分野において難解な課題が数多く存在しており、処理が遅い現在のコンピュータでは、解決が難しい。

世界最高水準のスーパーコンピュータ「富岳」を理化学研究所と開発した富士通は、こうした社会課題の解決を踏まえ、量子コンピュータの研究、開発を推進している。

2022年5月、東京ビッグサイトで開催された「量子コンピューティングEXPO【春】」の富士通ブースで量子コンピュータや、その周辺技術について話を聞くことができた。

■量子コンピュータとは?
富士通は、前述のように社会課題解決のために、量子コンピューティング技術の研究、開発に取り組んでいる。

量子コンピュータとは、現在のコンピュータとは異なる手法によって高速な計算を実行できるもの。専門家の中では、現在のコンピュータは「古典コンピュータ」といわれている。

現在のコンピュータでは「ビット」を計算の最小単位としている。
ビットは、0あるいは1という2通りの状態で情報を表現する。

たとえば、
・ある条件を満たさない ビットは0
・ある条件を満たす ビットは1
現在のコンピュータは、このように計算を進める。

一方、量子コンピュータは、「量子ビット」を用いている。
量子ビットとは、0でも1でもありうる「重ね合わせ」の状態をとる。

この曖昧な状態のおかげで、現在のスーパーコンピュータを凌駕する計算が可能になる。


東京ビッグサイトで開催された「量子コンピューティングEXPO【春】」の富士通ブース

■理研と量子コンピュータの開発に着手
量子コンピュータは現在、どれぐらい実用化に近づいたのか?

展示ブースのスタッフに話を聞いた。
富士通は2021年4月、理化学研究所(理研)とともに量子コンピュータの実用化に向けて、「理研RQC-富士通連携センター」を開設している。

同センターは、
・理研が取り組む超伝導回路を使った量子コンピュータの先端技術
・富士通が保有するコンピューティング技術、顧客視点に基づいた量子技術の応用知見
これらを統合して、共同で超伝導量子コンピューティングの実用化に向けて、研究開発を推進している。

具体的には、
・1000量子ビット級への大規模化を可能とする、ハードウェア、ソフトウェア技術の開発
・実機を活用したアプリケーションの研究開発
この2つを推し進めている。

スタッフによると、現在は超伝導量子コンピュータ試作機により、演算中に発生するエラーの検出や緩和に向けた実証実験をしている。
まだまだ研究開発をしている段階であり、実用化は5〜10年先になるとのこと。
当面は、100量子ビットの量子コンピュータを目指している段階だ。

■量子コンピュータを支えるソフトウェア技術
富士通が理研と進めている量子コンピュータは、超電導量子コンピュータだ。
超電導は現在、液体ヘリウム温度である−269度(4.2K)において発現する。

極低温の世界では、大きな問題が生じる。
外界の影響によりエラーが生じてしまったり、ノイズの影響により論理量子ビットごとに多くの物理量子ビットが必要になったりするのだ。

こういうトラブルに対処するのがソフトウェアの役割であり、富士通は大阪大学と共同で研究を進めている。

共同研究では、数千量子ビット規模の量子コンピュータを想定し、誤りが入った複数の量子ビットから元の情報を復元して量子誤り訂正を行うアルゴリズムの構築と、そのアルゴリズムを性能評価する技術の研究している。
また、将来の実機を想定したノイズを含む仮想マシン環境を用いて、ソフトウェアの動作も検証している。

量子コンピュータの実現に向けて、解決すべき課題は山ほどあるという。

■量子コンピュータのシミュレータ
量子コンピュータが実用化されるには、まだまだ時間がかかるため、量子シミュレータの研究が進められている。

富士通といえば、スーパーコンピュータ「富岳」を思い浮かべる人が多いだろう。
同社は2022年3月、富岳の頭脳(CPU)「A64FX」を活用して、36量子ビットの世界最速量子シミュレータの開発に成功した。このシミュレータを利用すれば、将来の量子コンピュータの実機を想定したノイズを含む仮想マシン環境により、ソフトウェアの動作検証ができる。

ブースでは、36量子ビットのチップを間近に見ることができた。
今回のイベントでは、このチップを見るために来場する人もいるという。


36量子ビット集積回路のチップ。滅多にお目にかかれない代物であるだけに注目の的だった。

36量子ビットの世界最速量子シミュレータを実現するには、64台のマシンが必要とのこと。
100量子ビットの量子コンピュータを実用化するためには、この量子ビットを増やしていく必要がある。

素人考えだと、128台のマシンがあれば64量子ビットにできそうだが、実際は37量子ビットにするだけで128台のマシンが必要になる世界なのだ。
100量子ビットとなると、現在の技術で、建物一棟ぐらいになるという。


36量子ビット集積回路のチップを拡大した映像。

量子コンピュータが実用化されると、さまざまな分野の技術が飛躍的に向上する可能性がある。

たとえば、太陽光発電の効率を上げるための触媒などの材料開発において、社会課題を解決することが見えている。
加えて量子の振舞いが、材料の電子軌道の状態をうまくシミュレートできているので、科学計算との相性がよいと言われている。

現在のコンピュータでは膨大な時間のかかる計算も、量子コンピュータなら短時間で計算できる。

富士通は今後、より大規模かつ高速な量子シミュレータの実現に向けて、複数の量子ゲートの演算をまとめて実行するゲートフュージョン技術などの強化を図る構えだ。

富士通は2022年4月より、富士フイルムとの共同研究として、材料分野での量子コンピュータプリケーション研究を推進中している。今年9月までに40量子ビット級の量子シミュレータを開発し、金融や創薬などの分野へ展開していく計画がある。

社会課題の解決にもつながる量子コンピュータの開発は人類の未来を加速させるだけに、今後も目が離せないテクノロジーといえるだろう。

スーパーコンピュータ「富岳」のテクノロジーを活用し、36量子ビットの世界最速量子シミュレータの開発に成功

ITライフハック 関口哲司





提供(C)ライブドアニュース

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