通俗科学

アルマ望遠鏡が捉えた惑星系形成の現場


アルマ望遠鏡が観測したPDS 70の擬似カラー合成画像。左は波長0.87ミリメートルの観測画像、右は今回の波長3ミリメートルの観測画像。アルマ望遠鏡による観測画像(赤)、ケック望遠鏡による赤外線観測の画像(緑)、VLT望遠鏡による可視光線観測の水素輝線画像(青)を合成した。ケック望遠鏡やVLT望遠鏡で見た惑星の外側に、アルマ望遠鏡で捉えた塵がリング状に分布していることが分かる。右の画像では特に、北西方向(画像右上)に塵の放射が集中していることも分かる。(クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), W. M. Keck Observatory, VLT (ESO), K. Doi (MPIA))

アルマ望遠鏡による観測で、形成されて間もない惑星の外側に、次の惑星の材料となる塵(ちり)が局所的に集まっている現場を捉えました。これは、すでに形成された惑星が次に作られる惑星の材料を集めて、形成を後押ししている可能性を示唆しています。本研究は、太陽系のような複数の惑星から成る「惑星系」の形成過程の解明に貢献するものです。

太陽系外惑星は、これまでに5000個以上発見されており、それらの多くは複数の惑星から成る「惑星系」を構成しています。これら惑星は、若い星を取り囲む原始惑星系円盤の中で、マイクロメートルサイズの固体微粒子である塵から生まれると考えられています。しかし、どのようにして塵が集まり、惑星系が形成されるのか、その詳細な過程は未だに解明されていません。

若い星「PDS 70」は、この星を取り巻く原始惑星系円盤で惑星形成が進行中である一方、この円盤の内側にすでに形成された惑星が2つ発見されている唯一の天体です。PDS 70の周囲の塵の分布を調べることは、そこで形成された惑星が、原始惑星系円盤やさらなる惑星の形成にどのような影響を及ぼしているかを、解明する手がかりとなります。この天体は過去に、惑星の外側にリング状に分布した塵からの放射が、アルマ望遠鏡を用いた波長0.87ミリメートルの観測によって捉えられていました。しかしこの波長では、放射の分布が塵の分布に対応していない可能性がありました。

そこで研究チームは、アルマ望遠鏡を用いたPDS 70の原始惑星系円盤の高解像度観測を、3ミリメートルの波長で行いました。この観測では、過去に行った0.87ミリメートルの観測よりも塵の分布をより正確に捉えることができます。今回行った波長3ミリメートルでの観測では、過去の観測とは異なった塵の放射分布が示され、惑星の外側のリングの中でも特定の方向に塵の放射が集中していることが明らかになりました。これは、成長した塵が狭い領域に集まっていることを意味します。

惑星の外側に見つかった塵の集まりは、すでに形成された惑星がその外側の狭い領域に塵を掃き集めていることを示唆します。この狭い領域に集められた塵が合体し、次の惑星の形成へとつながります。太陽系のような複数の惑星から成る惑星系の形成は、このような過程を繰り返しながら、内側から順に惑星の形成が進むと説明できることを示しています。このように本研究では、すでに形成された惑星が周囲の円盤に影響を及ぼし、惑星系の形成に至る過程を観測的に捉えることに成功したのです。

本研究を主導した、国立天文台で研究を進める総合研究大学院大学の大学院生(現在はマックスプランク天文学研究所に所属)の土井聖明(どい きよあき)さんは、次のように語っています。

「同じ天体内でも、天体を構成する要素ごとに異なる波長で光を放射します。そのため、一つの天体を複数の波長で観測することで、個々の構成要素が際立って捉えられます。PDS 70は、同じアルマ望遠鏡の観測でも波長ごとに異なる放射分布を示しており、アルマ望遠鏡で複数の波長域で観測することの重要性が分かります。構成要素は互いに影響を及ぼし合うため、さまざまな望遠鏡、観測設定で異なる要素を観測し、それらを比較することで、その系全体の理解を深めることができるのです。」

詳細記事

アルマ望遠鏡



クレジット:「国立天文台」NAOJ

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