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国際

海外公正取引当局の動き

米国司法省は,IEEE(電気電子技術者協会)に対する2015年ビジネスレビューレターを更新

2020年9月10日 米国司法省 公表【概要】
司法省は,本日,反トラスト局が2015年2月2日に米国の標準化団体であるIEEE(the Institute of Electrical and Electronics Engineers, Incorporated:電気電子技術者協会)に対して発出したビジネスレビューレター(以下「2015年レター」という。)を補足するレター(以下「補足レター」という。)を公表した。2015年レターは,反トラスト局が,同年IEEEが策定した特許ポリシーの改訂案について検討したものである。反トラスト局は,2015年レターがIEEEの特許ポリシーを承認したものとして,誤って解釈され,又は頻繁に誤って引用されているという産業界,議員,反トラスト局の元職員及び他の政府機関の職員によって提起された懸念に対処するため,今回,補足レターを公表することとした。また,2015年レターの内容は,近年の法制や政策の進展を踏まえると,時代にそぐわない面が見受けられる。
 今回の補足レターは,2015年レターにおいて時代にそぐわなくなった事項について,標準必須特許ライセンス及び標準化団体のガバナンスに関する過去5年間の米国における法及び政策の重要な進展を踏まえ,修正を行うものである(訳注)。補足レターにおいては,IEEEに対して,特許ポリシーの更新が妥当か否かを評価する際,同補足レター及び関連する全ての事項を考慮するよう促している。

(訳注)具体的には,補足レターは,以下の点を明確化している。①2015年レターにおいて,必須特許権者の差止請求を制限するIEEEの特許ポリシーの改訂案を司法省が支持したと誤解を受けているが,必須特許権者に差止請求を行う一般的な権利は失われていないこと,②合理的なロイヤリティについて,2015年レターにおいては,最小販売可能特許実施単位(smallest saleable patent practicing unit)に基づく算定の利点が強調され,その欠点が説明されていなかったが,合理的なロイヤリティの算定に当たり正しい方法は1つでないこと,③2015年レターにおいては,必須特許実施者によるホールドアウトなどを考慮せずに,必須特許権者のホールドアップのリスクに焦点を当てていたが,ホールドアウトから必須特許権者が保護されること。

オーストラリア競争・消費者委員会は,モバイルアプリ市場の実態調査を開始

2020年9月8日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表

【概要】
 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は,2021年3月に公表を予定しているモバイルアプリストアに関する調査の一環として,オーストラリアの消費者,アプリ開発者,供給者等の経験について調査する。
 調査対象となる論点には,アプリによるデータの利用及び共有,GoogleとAppleのアプリストア間の競争の程度並びにオーストラリアのモバイルアプリ市場において一層の価格設定の透明性が必要とされるか否かが含まれている。
 消費者は,アンケート調査を通じて,アプリの購入及び利用における経験を共有することが求められる。また,ACCCは,論点ペーパーを公表し,アプリ開発者及び供給者からの意見を求めている。
本調査は,ACCCの5か年(訳注:2020年から2025年)調査の一環であり,同5か年調査においては,オーストラリアにおけるデジタルプラットフォームサービスの供給市場を調査し,6か月ごとに報告することとされている。
 ACCCのDelia Rickard副委員長は,以下のとおり述べた。
 「アプリは,多くのオーストラリアの消費者の日常生活に不可欠なツールとなっており,その傾向は,コロナ禍において更に拡大する可能性がある。また,アプリは事業者が自らの企業を宣伝し,成長させ,経営していくに当たり,一層重要なものになっている。」
 「ACCCは,オーストラリアのモバイルアプリ市場について,同市場が,消費者及び事業者にとって,どの程度透明かつ効率的であるかを含め,より多くのことを把握したいと考えている。また,ACCCは,大手オンラインアプリストア間の競争の程度及びアプリ販売に関する大手事業者と他のアプリ供給者間の競争に焦点を当てる予定である。」
 オーストラリアの消費者は,携帯電話,タブレット及びスマートウォッチ等の携帯端末において使用するに当たり,数百万というアプリをダウンロードして入手することが可能であり,その範囲は,ゲーム,エンターテイメント,健康・運動,教育,食品等の商品のデリバリーや銀行業務等のサービスなど広範囲の機能にわたる。
 様々なアプリストア又はマーケットプレイスが存在する一方で,アプリ販売は,iOS向けのAppleのApp Store及びAndroid端末向けのGoogle Play Storeに支配されている。
 ACCCのRickard副委員長は,以下のとおり述べた。
 「アプリ開発者及び供給者は,大手アプリストアの一つに販売経路を得ることにより,多くの販売量を確保することができる。一方で,そのような経路を確保できない場合には,大きな打撃を被ることになる。ACCCは,このプロセスがどのように機能するかについて解明したい。」
 「ACCCはまた,大手アプリストアによる支配の結果として,Google及びAppleが入手できるデータを含め,アプリのエコシステムにおいて,データがどのように使用され,共有されるのかに関心を有している。」
意見の提出は2020年10月2日に締め切られ,最終報告書は2021年3月に公表される予定である。
 
 なお,上記の論点ペーパーにおいて,特に以下の事項について意見を求めていると明記している。
(1) Apple及びGoogleが自社の商品及びサービスを自社のアプリストアにリンク又は抱き合わせる能力及びインセンティブ並びにそれが消費者及び事業者に与える影響
(2) Apple及びGoogleがアプリストアの主要な供給者としてだけではなく,アプリ開発者,モバイルOSの運用業者及び端末製造業者として果たす様々な役割が,第三者のアプリ供給者の競争する能力に与える影響(アプリストア手数料が競争業者のコストに与える影響を含む。)
(3) アプリストアにアプリを掲載する事業者に課される契約条項,契約条件及び手数料(アプリ内課金を含む。)
(4) アプリストア手数料がイノベーションに与える影響
(5) アプリストアがアプリを当該アプリストアに掲載することを許可する決定方法並びに当該方法がアプリ供給業者,開発業者及び消費者に与える影響
(6) アプリがアプリストアに掲載される順序の決定方法
(7) アプリストアによる消費者データの収集・利用及び消費者が収集されるデータの範囲について,十分に知らされ,かつ,コントロールできるか。
(8) 有害なアプリから消費者を保護するため,アプリストアが採る措置が機能しているか。

 フランス競争委員会は,支配的地位を濫用したとして大手製薬会社3社に対し総額4億4400万ユーロの制裁金を賦課

2020年9月9日 フランス競争委員会 公表

【概要】
 フランス競争委員会は,加齢性黄斑変性症(以下「AMD」という。)の治療薬であるルセンティスの地位及び販売価格を維持し,同治療薬と競合する30分の1も安価な医薬品であるアバスチンの販売に損害を与える濫用行為を行ったとして,製薬会社であるNovartis,Roche及びGenentechの3社に対し,総額4億4400万ユーロの制裁金を賦課した。
 
背景
 AMDは,先進国の50歳以上の者の視力低下の主要因となっている。その症状は,特に視野の中心部に暗点が現れるものであり,中心視覚の重度の低下を引き起こす。
 Genentechは,AMD治療薬としてルセンティスを開発し,また,抗がん剤としてアバスチンを開発した。医師の間では,アバスチンがAMDの患者にも有効である認識されており,AMDの治療薬としての販売は認可されていないものの,ルセンティスよりも30分の1も安価であるため,その使用が広がっていた。具体的には,アバスチンは注射1回につき30ユーロから40ユーロであるのに対し,ルセンティスは注射1回につき1161ユーロであった。
 なお,2012年の外来医療費に関する文書によると,フランスの社会保障制度によって保険による払戻しの対象となる外来医療で使用される医薬品のうち,ルセンティスが最も高価なものであり,総額約3億9000万ユーロが払い戻され,前年比約30%の増加率を記録した。
 AMDの治療を目的としたアバスチンの適応外使用の拡大に伴って,多くの国の公的機関は,AMDの治療薬としてアバスチンを処方することの有効性や副作用を確認するため,研究プロジェクトを始動した。そのような背景の下,Genentech,Novartis及びRocheは,アバスチンの適応外使用を抑制することにより,その地位やルセンティスの価格を維持するため,共同して支配的地位の濫用を行った。
 
3社による共同の支配的地位の濫用
 共同の支配的地位の濫用は,単一の行為者ではなく,互いに緊密な関係を有する複数の事業者の市場支配力から支配的地位を捉える競争法の概念である。
 フランス競争委員会は,3社の株式持合い,GenentechとNovartis間の米国外におけるルセンティスの販売に関するライセンス契約,GenentechとRoche間の米国外におけるアバスチンの販売に関するライセンス契約などの契約上の提携に関して,競争法上の「単一の共同企業体」として構成されるか否かを検討した。2つの医薬品のコストの違いを考慮すると,ルセンティスよりもアバスチンが使用されることにより,以下のとおり3社に大幅な減益をもたらすものであった。
 Novartisはライセンシーとして,本件対象市場におけるルセンティスの販売から収益を得ており,Genentechはライセンサーとして,本件対象市場におけるルセンティスの販売におけるライセンス収入を得ており,また,RocheはGenentechの主要株主であり,2009年3月以降は単独株主であることから,Genetechの収益から配当を得ることになる。
 
Novartisによるアバスチンの中傷キャンペーン(期間:2008年3月から2013年11月)
 Novartisは,眼科の患者に対してアバスチンを処方する一部の眼科医の判断を中傷する方法を模索した。具体的には,AMDの治療のため,抗がん剤として開発されたアバスチンの適応外使用や,より一般的には眼科における使用について,同じ目的のために安全で忍容性の高いルセンティスの使用と比較し,不当なまでにリスクを誇張するなどの中傷を行った。
 このような行為は,AMD治療や,より一般的には眼科における他の使用に関して,アバスチンの適応外使用の件数を減少させる効果があった。また,当該行為は,ルセンティスを競争的な価格レベルを超えた極めて高い価格に維持するという間接的な効果をもたらし,さらに,アイリーア(2013年11月に発売された,アバスチンとは別のルセンティスと競合する医薬品)の価格を人為的に高い価格に固定することになった(注)。
(注)アイリーアの価格は,ルセンティスとおおむね同じ薬価(ただし,10%低額)であった。
 
公的機関に対するアバスチンの適応外使用の警戒感を高め,誤解を与える行為(期間:Rocheは2008年4月から2013年11月初旬までの期間,Novartisは2011年5月から2013年11月初旬までの期間,Genentechは2011年4月から2013年11月初旬までの期間)
 Novartis及びRocheは,Genentechの支援を得て,AMD治療におけるアバスチンの使用に関するリスクについて,共謀して,公的機関に対して妨害を行い,警戒感を広め,時には誤認させる説明を行った。これらの行為は,AMD治療のためにアバスチンの適応外使用を承認する公的機関の活動を妨害し,又は不当に遅らせることを目的としていた。
 これらの行為は,競争が制限されている健康医療分野で行われた。より具体的には,眼科において使用可能である相当に安価なアバスチンが存在するにもかからず,極めて高額なルセンティス(フランスの社会保障制度によって保険による全額払戻しの対象となる医薬品)がフランスの社会保障財政に与える影響について議論がされている時代においては,特に重大な影響をもたらす行為である。
 
 よって,フランス競争委員会は,Novartisに対して3億8510万3250ユーロ,Roche及びGenentechに対して5974万8726ユーロの総額4億4485万1976ユーロの制裁金を賦課した。

ドイツ連邦カルテル庁は,「オンライン販売におけるナロー価格パリティ条項の効果 - Booking.comの審査結果」と題する報告書を公表

2020年8月28日 ドイツ連邦カルテル庁 公表

【概要】
ドイツ連邦カルテル庁は,「オンライン販売におけるナロー価格パリティ条項の効果 - Booking.comの審査結果」と題する報告書を公表した。
価格パリティ条項(最恵国(MFN)条項とも呼ばれる。)は,マーケットプレイスやオンライン予約プラットフォームなどの仲介者(intermediaries)によって供給者にしばしば課されるオンライン販売に係る制限である。最も包括的な形態においては,当該条項は,プラットフォームを利用する供給者が,他のどの販売先においても,自らの商品及びサービスを当該プラットフォームより低い価格又はより有利な条件で提供することができないことが規定される(いわゆる「ワイド価格パリティ条項」(wide price parity clauses))。また,価格パリティ条項が特定の販売チャネルだけに適用される形態もある(いわゆる「ナロー価格パリティ条項」(narrow price parity clauses))。
 以下の説明及び知見は,ドイツ連邦カルテル庁が行った調査結果及びそこから導き出された評価に専ら基づくものである。
 
ドイツ連邦カルテル庁の調査結果の概要
 ドイツ連邦カルテル庁の調査の結果,ナロー価格パリティ条項の撤廃は,Booking.comの市場における成功を妨げるものではないことが明らかとなった。Booking.comはドイツにおいて圧倒的な地位を有する大手オンライン宿泊予約プラットフォームであり,価格パリティ条項を規定しなくとも,その市場における地位を更に強化し,大幅な成長率を達成することが可能であった(下記Ⅰ参照)。宿泊施設は「ホテル予約ポータル」の販売チャネルを軽視することなく,多様な販売方法において利用可能な価格オプションを用いている(下記Ⅱ参照)。ほとんどの消費者は価格を比較することなく,最初に宿泊施設を見付けた場所で予約しており,重大なサイトの移動やただ乗りは行われていない(下記Ⅲ参照)。宿泊施設自らのオンラインでの直販チャネルは,以前に当該宿泊施設を予約したことがあり,既に当該施設を知っている消費者によって主に利用されている(下記Ⅳ参照)。
 
Ⅰ. ナロー価格パリティ条項の撤廃によるBooking.comへの損失は認められない
 Booking.comの年間及び月間(季節調整済み)の手数料及び売上高について分析した結果,ナロー価格パリティ条項の撤廃後の2年間において,Booking.comがドイツの宿泊施設を最終消費者に仲介する事業において損失を被ることはなかった。それどころか,Booking.comは成長する市場において更にその地位を強化し,HRSやExpediaから遥かに先んじて,ドイツの圧倒的な大手オンライン宿泊予約プラットフォームとなった。他の重要な数値(宿泊施設との提携数や市場占有率,従業員数,広告費)も,Booking.comの事業がナロー価格パリティ条項の撤廃による損失を被ることはなかったことを示している。
 
Ⅱ. 宿泊施設は,直販とオンライン宿泊予約サイトを通じた販売において,意図的に価格設定を使い分けている
 ナロー価格パリティ条項が撤廃された後においても,調査対象となった宿泊施設の規模にかかわらず,オンライン宿泊予約プラットフォーム,特にBooking.comがオンライン販売における流通チャネルの中心である。現在,ほとんどの宿泊施設は独自のオンライン予約機能を提供しているにもかかわらず,オンライン販売の増加の約4分の3は,いまだにオンライン宿泊予約プラットフォームを通じて生み出されたものである。Booking.comを利用している宿泊施設の約3分の2が,「Booking.comは事業上ほぼ必要不可欠なものになっている。」と回答した。
 このような背景から,宿泊施設はオンライン宿泊予約プラットフォームを通じた販売を無視できないことが明らかになった。オンライン宿泊予約プラットフォーム上のランキングは,顧客の予約数に決定的な影響を与えており,ほとんどの場合,1位から5位までにランク付けされた宿泊施設のみが予約されることになる。ランキングを引き上げる決定的な要因は,特に顧客レビュー,予約数,コンバージョン率(訳注:閲覧した消費者が成約に至った率)及び手数料率である。Booking.comに登録している大多数の宿泊施設が,そのランキングを改善するための措置を講じているという事実は,宿泊施設がBooking.com上のランキングを重要なものと考えていることの証左である。同時に,Booking.comを利用している宿泊施設の半数以上が,現在Booking.comと当該宿泊施設の直販サイトの間で異なる価格オプションを用いている。異なる価格設定を行う頻度やその価格幅は様々である。このことは,ナロー価格パリティ条項が宿泊施設の競争を制限しているとしたドイツ連邦カルテル庁の禁止決定を裏付けるものである。ナロー価格パリティ条項が撤廃されたため,現在,各宿泊施設は,オンライン販売において独自の販売戦略(手数料の水準,流通コスト及び宿泊施設に関連する他の基準を踏まえた異なる価格設定の範囲や頻度など)を用いることができる。
 大手オンライン宿泊予約プラットフォームの予想に反し,ナロー価格パリティ条項の撤廃によって,オンライン宿泊予約プラットフォームの売上げは減少しなかった。また,オンライン販売全体の拡大と宿泊施設自らのオンラインでの直販の拡大の比率は,ナロー価格パリティ条項の撤廃前と同水準であった。このことは,ナロー価格パリティ条項が必要であるとするオンライン宿泊予約サイト事業者の主張への反証となるとドイツ連邦カルテル庁は考えている。
 Booking.comがナロー価格パリティ条項を撤廃した後,オンライン宿泊予約プラットフォーム間における価格の差異は顕著に拡大した。オンライン宿泊予約プラットフォームが,より有利な価格を設定するために,より有利な手数料率の提供に同意する場合には,多くのことが進展することが期待される。しかし,ドイツ連邦カルテル庁が本件調査を行っている間には,オンライン宿泊予約プラットフォームは,そのような手数料率を提案することに全く関心がなかった。
 また,本件調査によって,宿泊施設が個々のオンライン宿泊予約サイトにおいて異なる価格を掲載しているケースと,自社のオンライン予約システム上における価格をBooking.comよりも低く価格を設定しているケースの間には,有意な正の相関があることが判明した。
 このことから,宿泊施設は非常に注意深く選択肢を吟味し,どの販売戦略が最も利益を上げられるかについてよく検討していることが分かる。オンライン宿泊予約プラットフォームが提供する市場の状況や優れた販売サービスは,宿泊施設がオンライン宿泊予約プラットフォームを通じて売上げを拡大することに強い関心を有する状況につながり,また,この関心が考慮される場合にのみ自社の直販の強化を目指すという状況につながる。ドイツ連邦カルテル庁による調査期間中,顧客のフローに変化はなく,ドイツ連邦カルテル庁の見解では,近い将来にもこのような変化が発生する可能性は低いとしている。
 
Ⅲ.  消費者は価格をほとんど比較せず,最初に当該宿泊先を見付けた場所で予約しているため,重大なただ乗り行為は行われていない
 消費者に対する調査は,ドイツ連邦カルテル庁が禁止決定を下してからしばらく経た後,すなわちナロー価格パリティ条項のない競争的な環境の中で実施された。同調査は,18歳以上のドイツの住民を対象とし,ドイツ所在の宿泊施設のオンライン予約のみについて質問したものである。同調査により,消費者は最初に当該宿泊先を見付けたサイトで予約することが最も一般的であることが明らかとなった。消費者は,以前把握していなかった多くの宿泊施設を,オンライン,特にBooking.com上で見付けていた。そして,ほとんどのケース(99%)において,消費者はBooking.com上で予約をしていた。同調査結果を踏まえると,消費者がBooking.com上で宿泊施設を見付けた後,Booking.comから直販の自社サイトに移動して予約することはほとんどない。ドイツ連邦カルテル庁の見解では,ナロー価格パリティ条項のない環境においても,ただ乗りが増加するなどの状況は認められなかった。このことは,Booking.comが適用してきたナロー又はワイドの価格パリティ条項は,ただ乗りの削減に大きくは寄与していないことを意味する。
 実際にオンラインで特定の宿泊施設の価格を比較している消費者は3分の1にすぎなかった。別個の予約チャネル上での価格の比較が限定的であるという事実は,オンライン宿泊予約プラットフォーム自らが提供する情報によっても確認される。当該情報によると,大多数の予約は,オンライン宿泊予約プラットフォームによって提供されるリストに基づき行われており,当該リスト上の1位から5位までにランク付けされた宿泊施設が全ての予約の70%以上を占めていた。消費者が,同じオンライン宿泊予約サイト上で別の宿泊施設の価格と比較することすら煩雑と感じるのであれば,異なるオンライン宿泊予約サイト上で特定の宿泊施設を探すことはそれ以上に煩雑である。
 総じて,大多数の消費者は,少なくとも大手オンライン宿泊予約プラットフォームの主張を基に想定するよりも,価格を比較することに関心は少なく,価格に敏感ではない。このような背景の下,ドイツ連邦カルテル庁は,Booking.comが引き続きナロー価格パリティ条項を使用しなかったとしても,将来において同社が損失を被ることはないとしている。
 
Ⅳ.  宿泊施設自らのサイトで直接予約する消費者の多くは,予約以前から当該宿泊施設を知っている消費者である
 本件調査において,消費者の約3分の2は予約以前には実際に予約した宿泊施設のことを知らず,残りの約3分の1の消費者は予約以前から既に知っていたことが明らかになった。また,同調査において,宿泊施設に関連する2つのオンライン流通チャネル(オンライン宿泊予約プラットフォームと宿泊施設自らのオンライン販売チャネル)は,それぞれ異なる消費者グループを集客していることが明らかとなった。
 オンライン宿泊予約プラットフォームの流通チャネルは,主に予約以前に当該宿泊施設を知らない消費者との結びつきが特に見られる。このような消費者の80%以上は,インターネット上で当該消費者が予約した宿泊施設を見付けており,その3分の2がBooking.com上で見付けていた。そして,前述のとおり,ほとんど全ての予約が当該宿泊施設を最初に見付けた場所で行われていた。Booking.com上で宿泊施設を見付けた消費者の99%が実際Booking.com上で予約し,1%未満の消費者が当該宿泊施設自らのオンライン販売を通じて予約していた。また,他のオンライン宿泊予約プラットフォームについても同様のことが確認できた。
 残りの約3分の1の消費者は,予約以前から既に当該宿泊施設を知っていた。宿泊施設自らのオンライン直販は,このような消費者にとってのみ経済的に重要である。
 ドイツ連邦カルテル庁の調査を踏まえると,ナロー価格パリティ条項は,行き過ぎた手段であり,Booking.comのサービスを利用しない消費者がより高額な料金を支払わなければならない状況につながる。調査期間中において,Booking.com上で宿泊施設を見付けたものの,当該宿泊施設をBooking.com上からではなく直接予約した消費者は僅か1%未満であり,ナロー価格パリティ条項は,この範囲でのみ,オンライン宿泊予約プラットフォームを,宿泊施設による信義に欠ける行為から保護するために機能していることになる。それにかかわらず,ナロー価格パリティ条項は,Booking.com上で宿泊施設を見付けたわけではない消費者も含め,宿泊施設自らのオンライン予約システムを通じて予約した全ての消費者に対して,より高額な料金を支払わせることにつながる。
 また,本件調査において,Booking.comは,初回の予約において最も重要なオンライン販売チャネルであるだけでなく,既に当該宿泊施設を知っている消費者によってなされた予約においても大きなシェアを占めていることが判明した。

出典:公正取引委員会ホームページ(https://www.jftc.go.jp/) 

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