XENONnT実験、極低エネルギー太陽ニュートリノによる電子散乱を世界初観測 東大宇宙線研など国際チーム
イタリア中部のグラン・サッソ国立研究所(LNGS)にある地下約1400メートルの実験施設で、暗黒物質(ダークマター)の直接探索を行っている国際共同研究グループ「XENONコラボレーション」が、太陽から飛来した低エネルギーニュートリノと電子の弾性散乱現象を世界で初めて直接捉えることに成功した。東京大学宇宙線研究所や同カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)などの国内参加機関が発表した。
観測結果は現地時間の2026年8月31日に同研究所で開催されたセミナーで公表され、日本国内の研究機関からも9月2日に詳細な報告が行われた。XENONnT(ゼノンエヌトン)実験は、日本、米国、欧州各国の研究機関が主導するプロジェクトであり、日本からは東京大学宇宙線研究所やKavli IPMUのほか、神戸大学大学院理学研究科、東京科学大学理学院、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所、同宇宙地球環境研究所が参加している。
実験装置の中核を担うのは、5.9トンの超高純度液体キセノンを標的物質として充填した「二相式キセノン時間投影チェンバー(TPC)」である。周囲を水チェレンコフ検出器などで囲むことで、宇宙線ミューオンや環境中の放射線によるノイズを極限まで排除する構造を備えている。
今回の解析により、ニュートリノを直接捉えることができるエネルギー領域の下限が約17キロ電子ボルト(keV)まで引き下げられた。これは、これまでに人類が直接観測に成功したニュートリノの記録として史上最も低いエネルギー帯となる。検出された信号の大部分は、太陽の中心部でエネルギーを生み出す根幹プロセスである陽子-陽子融合反応(pp連鎖反応)に伴って放出される「ppニュートリノ」と呼ばれる電子ニュートリノによるものと同定された。
暗黒物質の探索装置として設計された同装置が、副産物として素粒子物理学における重要な一歩を記録した形だ。Kavli IPMU准教授で神岡分室長を務めるカイ・マルテンス氏は、「私たちは、ダークマター探索競争に勝利することを目指して XENONnT を構築しました。残念ながら、現時点ではまだ成果は得られていません。しかし幸いなことに、この検出器は同じ種類の装置の中で最もノイズを少なくするよう設計されており、競合の他実験よりも低いエネルギー領域の測定が可能です」と述べている。
極めて高い感度と低ノイズ環境の実現によってもたらされた今回の成果は、太陽の核融合モデルの精密な検証にとどまらず、未知の素粒子現象の解明に向けた新たな観測手段を提供するものとして注目を集めている。
