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夢が形を成し、物語と共に進む 米津玄師「Plazma」が『機動戦士ガンダム』に登場

夢が形を成し、物語と共に進む 米津玄師「Plazma」が『機動戦士ガンダム』に登場

TVシリーズ第12話「だから僕は…」の放送を終え、ついに完結したスタジオカラー×サンライズによるガンダムシリーズ最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(以下、ジークアクス)』。その世界を彩った主題歌「Plazma」は、稀代のポップ・アーティスト米津玄師と、ガンダムの初コラボレーションから生まれた。この記事では、ガンダムファン以外も巻き込んだ『ジークアクス』という現象、音楽面での大きな原動力となった米津玄師「Plazma」との“並走”について解説する。

米津玄師とガンダム。ついに夢が、交わる。

『ジークアクス』の最終回を見終えたとき、「夢が、交わる。」とのキャッチフレーズに、これほどの幅と深みがもたらされるとは思ってもいなかった。SFアニメの未来を切り拓いてきたスタジオカラー×サンライズのタッグを示すキーワードに留まらず、マチュ(アマテ・ユズリハ)やララァ・スンなど、登場人物たちの願いが立体的に交錯する物語そのものの構造を示す言葉でもあったこと。さらに、劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-(以下、Beginning)』を導線とし、旧来からのガンダムファンと、初めて作品に触れたファンが一緒になって楽しめる夢の場所になったことに驚かされたのだ。ララァを例に挙げれば、彼女の登場回直後、スピンオフ小説『密会 ララァとシャア』のKindleランキングが24時間で12368位⇒7位へと急浮上(※6月6日時点)。過去作からそのキャラクターを深く知ろうとする視聴者が多く生まれたのである。

そしてもうひとつ。『ジークアクス』の物語に推進力を与え、キャラの感情を紐解く上での重要な補助線となったのが主題歌「Plazma」である。今年は「米津玄師 2025 WORLD TOUR / JUNK」を成功させるなど、世界を股にかける稀代のポップ・アーティストである米津玄師が手掛けたこの楽曲は、ガンダム、そして鶴巻和哉監督への絶対的な信頼と愛情を具現化したものとなり、視聴者の心を鷲掴みにしたのである。

仮想戦記を取り込んだ『Beginning』の驚きと、その反響

まずは、『ジークアクス』の概要を振り返っておこう。主な舞台は、宇宙世紀0085年。富野由悠季(当時は富野喜幸名義)監督作品『機動戦士ガンダム(以下、ファースト)』(79年)の舞台である宇宙世紀0079年から5年後の世界を映している。だが、大きな違いが存在する。『ファースト』で繰り広げられるジオン公国軍VS地球連邦軍の「一年戦争」は、連邦軍の勝利で終結する。対して『ジークアクス』は、ジオン公国軍が勝利した世界の延長線上にあるのだ。

if展開のきっかけは、『ファースト』では主人公のアムロ・レイが乗る連邦軍の新型機ガンダムを、ジオン公国軍のシャア・アズナブルが発見、鹵獲したこと。監督を務めた鶴巻和哉曰く「『ファースト』の仮想戦記」を出発点とし、そこから5年後の世界で生きる3人の若者たち(マチュ、ニャアン、シュウジ)の出会いとその行く末を、非合法のモビルスーツバトル「クランバトル」を絡ませながら追いかけていく。最終的には、「ゼクノヴァ」と名付けられた超常現象を描くなど、壮大なスケールを有する作品である。

仮想戦記を足がかりにした「もうひとつの一年戦争」という大胆なアイディアは、今年1月からほぼ情報がない状態で公開された劇場先行版『Beginning』にて明らかにされ、公開直後に鑑賞した生粋のガンダムファンに衝撃を与えた。以降、彼らは自らが味わった衝撃を体感してもらおうと、自主的に内容を伏せた形で鑑賞を促すポストを発信。それがガンダムファン・アニメファンを映画館に呼び寄せる要因ともなった。結果的に興行収入は35億円を突破し、ガンダムシリーズの劇場版作品としては『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(24年)に次ぐ、歴代2位の記録を打ち立てている。

さらに4月〜6月にかけて放送された全12話のテレビシリーズは、地上波に加え、Prime Videoで240以上の国や地域(日本およびベトナム除く)で配信が行われた。火曜の深夜帯の放送・配信であったにもかかわらず、リアルタイムでの実況や、登場したキャラクター&モビルスーツの考察や分析、メタ的な視点も含めた様々なオマージュ・引用の指摘などが大量にポストされ、Xのトレンドを独占する現象が発生。最終回直後のXでは、「ジークアクス」、「アルテイシア」、「ヒゲマン」、「シャア専用ヅダ」など、上位30件のうち25件が本作の関連ワードとなり、まさに祭りの様相を呈したのである(※Sony Music Labels Inc.調べ)。

仕掛けに満ちた『ジークアクス』。その世界を憑依させた「Plazma」

 『Beginning』、そしてTVシリーズの主題歌となった米津玄師の「Plazma」は、そんな『ジークアクス』の衝撃を音楽面から見事にバックアップしている。楽曲は、最終話までの画コンテ、そして監督である鶴巻和哉との打ち合わせを基に組み上げられたアップテンポなナンバー。米津は、制作コンセプトをこう答えている。

「マチュやニャアンらの過ごしていくストーリーと同軸で、もしもという、もう一つの大きな軸のある物語になっています。そこを軸に据えながら、子供達が狭い世界から、大きな世界に飛び出していくというニュアンスを両方同時に詰め込むことで、この作品に似付かわしい曲が作れるんじゃないか」
(3月28日、劇場先行版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』フィナーレ舞台挨拶で上映された 米津玄師 動画コメントからの抜粋)。

彼のルーツであるボーカロイド作家としての原点に立ち返ったような、性急かつめくるめく曲展開と、現代のハイパーポップとも共振する、きめ細かく高密度なシンセ〜エレクトロ・サウンド。そして、マチュとニャアンの運命的な出会いを描写した「もしもあの改札の前で 立ち止まらず歩いていれば」との歌詞は、まさに『ジークアクス』全体のif展開の象徴となっている。サビでは「飛び出していけ宇宙の彼方」と飛躍のある言葉と親しみやすいメロディを用いて、日々の生活に閉塞感を覚えていたマチュがすべてを脱ぎ捨てて前に向かう様子をダイナミックに表現してみせた。オープニングのほか、TVシリーズ第1話でマチュがモビルスーツ・GQuuuuuuXへと乗り込む最重要シーンで使われており、物語への貢献度も非常に高くなっている。

米津玄師が語る、ガンダムシリーズと、鶴巻作品への愛

単語としては「Plasma」であるが敢えて「Pla“z”ma」と表記したタイトルには、『ファースト』の7年後を描いた『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』(85年)に対する目配せがあるのでは――。そんな邪推が浮かんでしまうほど、米津玄師のガンダムシリーズへの愛情は深い。子どもの頃、プレイステーション用ゲーム『SDガンダム GGENERATION-F』(00年)でシリーズにはじめて触れた彼は、好きなモビルスーツにウイングガンダムゼロカスタム(『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』初出。現名称はウイングガンダムゼロ[EW版])やケンプファー(『機動戦士ガンダム0080-ポケットの中の戦争-』初出)を挙げており、複数の作品に触れているのが窺える。さらに、鶴巻和哉の代表作であるオリジナルアニメ『FLCL(フリクリ)』(00年)にも強いリスペクトを示している。鶴巻和哉と脚本・榎戸洋司のコンビが創り出すケレン味溢れる青春譚への解像度が高かったことも、同コンビが担った『ジークアクス』との相性の良さに繋がっていると言えるだろう。

 「Plazma」はチャートアクションも期待を裏切らず、Billboard・オリコンの上半期ダウンロードチャート1位を記録したほか、登場21週目にはストリーミングが1億回再生を達成。6月11日にリリースされたCDシングルのセールスは週間チャートで首位5冠を獲得している。米津本人が手掛けたマチュ、ニャアンのイラストがジャケットとなり、「インストーラーデバイス盤」「ハロ盤」といったパッケージは、入荷日の時点でオンライン、店頭共に売り切れが続出した。

今回のコラボレーションを全面に押し出したプロモーションも幅広く展開され、CDリリース時には、タワーレコード渋谷店でフォトスポットも含むパネル展示が行われた。また、米津が愛好する『Gジェネ』シリーズの最新作であり、リリース日からのダウンロード数がApp Storeでは5日間、Google Playでは12日間連続で首位を記録(※SensorTower調べ)したスマホゲーム『SDガンダム ジージェネレーション エターナル』とも異例の早さでコラボ。BGMとして「Plazma」が実装されている。さらに最終話直後には、ネタバレ映像も含む本編映像を盛り込んだ「Plazma」✕『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』のミュージックビデオが新たに公開。公開から2週間を経ても急上昇タグがつくほどで、500万回再生に届こうとしている(※7月11日現在)。

 そして何より、米津玄師本人も、ガンダムに対する素直な愛を交えた『ジークアクス』の感想を積極的にポスト。加えて、モビルスーツやキャラクターのフィギュアが「Plazma」に合わせてダンスするストップモーション動画(制作:Animist)を、本人のSNSアカウントから公開している。GQuuuuuuXが華麗なステップを見せ、Xでは1800万回を超える再生数を記録した第一弾「踊るガンダム」、マチュ、ニャアン、シュウジのSDキャラがダンスする第二弾「踊るマチュ」、GQuuuuuuX&赤いガンダムがペアとなった第三弾「踊るM.A.V.」の3本は、どれもポップでキュートな仕上がり。はじめてガンダムに触れる米津のファンや、ロボットアニメを敬遠していた層にも興味を持たせる重要なタッチポイントとなった。

楽曲を提供するだけでなく、物語と並走する

 つまり、劇場先行版『Beginning』公開からの半年間、米津玄師はただタイアップソングを提供しただけに終わらなかった。音楽家としての才を注ぎ込んだ「Plazma」を携え、『ジークアクス』の終焉までずっと間近で並走してきたのである。自身のライブツアーやほかの制作を抱えながらプロモに協力を惜しまず、一視聴者としても楽しむ。そこにビジネスが介在しているにしても、『GジェネF』で「白トーラスの無限生産(※1)」をして遊んでいた頃の米津少年と、何ひとつ変わらないワクワクした気持ちがあったのではないだろうか。だからこそ、物語との並走に無理がなく、自然な心の盛り上がりが彼のコメントやポストから感じられたのである。

彼の心の盛り上がりを表すポストとしてひとつ挙げるとするなら、米津がTVシリーズ第11話終了時に思わずXでつぶやいた「そら笑うだろ」だろう。どうして笑ってしまうのか? その真意を含めて話題となったが、『ファースト』だけでなく『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』まで射程に入れ、想像を遥かに超える “まさか”の展開・ビジュアル・サウンドが怒涛のように押し寄せてきたわけで、ガンダムシリーズのファンとして共感できる感想であった。

すべての現象を象徴するアンセムとしての「Plazma」

6月28日、『Beginning』の復活上映記念で行われた舞台挨拶で、鶴巻和哉監督はファンの前で正直な気持ちを告白した。

「ガンダムファンからどう思われるのかなという不安はありました。でも、『Beginning』公開から半年、あたたかく応援していただいて、制作のモチベーションになりました」

確かに、鶴巻監督も、ガンダムシリーズのファンであるからこそ、チャレンジする覚悟が必要だったはず。特に精神的にも体力的にもタフなTVシリーズの制作を完走できたのは、理解のあるスタッフの参加――音楽面では、ガンダムシリーズも『FLCL(フリクリ)』も嗜んでいた米津玄師とのコラボレーションは代えがたい助力となっただろう。

ガンプラをはじめグッズや関連商品の売上規模は1,457億円を記録し(※「バンダイナムコグループ2024レポート」より。同年度の『DRAGON BALL』シリーズ売上が1,406億円)、「EXPO 2025 大阪・関西万博」では実物大ガンダム像が建造されるなど、ガンダムシリーズは日本を代表する巨大IPとなった。だが、『ファースト』がその後の歴史を変えた記念碑的な物語であり、現在でも日本最高峰のアニメーション・SFロボット作品であるのは揺るぎない。『ジークアクス』は、あまりに巨大化した「コンテンツとしてのガンダム」と真正面からぶつかりながら、原典そのものの素晴らしさを鶴巻監督以下クリエイターたちが掘り下げ、未来に繋げようと全力を注いだ無二の作品である。その結果、若い視聴者が『ファースト』や『Z』を遡って視聴する、“夢”のような事態も起きたのである。

米津玄師が果たした役割は、改めて振り返ってみても大きなものであるし、「Plazma」が今回の現象をまるごと象徴するアンセムになったのは、もはや疑いのない事実であろう。現代日本で最高峰の音楽家が、子供の頃にガンダムに対して湧き立った気持ちに立ち返り、素直に「好き」や「喜び」を詰め込んだ夢の具現化として、または恩返しとして生み出した一曲なのだから。

文・森樹(編集者、ライター)
(※1)「白トーラスの無限生産」……米津がXで言及していた『GジェネF』内のライフハックならぬプレイハック。「黒歴史」コードなるものを入力すると、白トーラスをMA(モビルアーマー)形態で生産するコストが0に。それをMS(モビルスーツ)形態にして売却すればお金(キャピタル)が稼げるため、何度も同工程を繰り返して資金を増殖させることが可能。プレイ序盤ではとっても助かる裏技である。
ちなみにトーラスとは『新機動戦記ガンダムW』に登場するモビルスーツ。有人機と無人機(モビルドール)があり、可変機構を有する。



提供(C)ライブドアニュース

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