この漫画、「娘の弁当…」の究極形は「理解の深い彼くん」? 衝撃のラストで話題に
2024年12月、とある漫画の結末が「あまりに衝撃的。予想外すぎる」と大きな話題に。
高校生の娘が「自分でお弁当を作ってみたい!」と言い出したことをきっかけに、上手くいっていた(?)はずの一家の日常がガラガラと崩れ始めて―― 。ほのぼのした絵柄から「スカッと成敗」系のコミックエッセイかと思いきや、ラスト数コマの展開に目を疑う読者が続出。タイトルの一部がXでトレンド入りするほどの反響を呼んだ。
この漫画は、ライブドアブログの漫画メディア「YoMuRy」で発表されていた『娘の弁当が気に入らない!』。2023年に発表された作品だが、トレンド入りを記念してライブドアニュースでは作者のぱん田ぱん太さんにインタビュー。作品が生まれた背景や、Xで話題を呼んだユーザーの考察についてたっぷりと話を聞いた。
・Kindle『娘の弁当が気に入らない!』
・Kindle『母は私の反面教師』
「毒親」「家族関係」は私の作品では定番のテーマです
―― Xで「娘の弁当」がトレンド入りしたのが2024年12月16日のことでしたが、ぱん太さんはどのように知りましたか?
最初は全然気づきませんでした! 読者さんが「トレンドにぱんちゃんの漫画のタイトルみたいなものがあると思って見てみたら、本当にぱんちゃんの漫画だったよ!」って教えてくれたんです。
以前バズったネイルのお話をリポストしてくれた方が、「あの漫画の人だ! 絵柄でわかった」って言ってくださって、私のスマホにもその通知が届いて、すごく嬉しかったですね。
インスタにネイル写真をアップしたら最強にめんどくさいことになった? pic.twitter.com/kqJ5q2HNqO
— ぱん田ぱん太❤️「ママ友4人の誰かが夫と不倫している」電子書籍発売中 (@pandapantade) May 25, 2022
―― 漫画についての感想ポストもご覧になりましたか?
「エイリアンとプレデターが争っている現場をゴジラが踏み潰していった」って表現してくださった感想を見ました!(笑)読者さんが教えてくれたんですが、それが一番印象深い感想でしたね。
―― それは、かなり印象に残りますね(笑)。編集部でもいろいろな投稿を見ましたが、普段とは違う読者層に作品が届き、そこから波が広がっていった印象を受けました。漫画が大好きで、かつコミックエッセイは普段あまり読まない層というか。そもそも最初にこのお話を描こうと思ったのはいつぐらいでしたか?
2023年ですね。ライブドアブログ編集部の方から「YoMuRy(ライブドアブログの漫画メディア)の連載で何か創作漫画を描いてみませんか?」と言われて、じゃあこんなのがいいなと思いついて描き始めました。
―― まず最初にどこの部分から考えたのでしょうか?
最初は「食べ物」が関わる話がいいなあと。私、小さい頃からおいしそうな食べ物が出てくる絵本が大好きで、食べ物のイラストを描くのも好きだったんです。だから食べ物が出てくることを大前提として、そこに人間関係のお話も組み込んでいけたらいいなと思いました。
―― そのときから「毒親」や「両親からの呪縛」を取り入れることも決めていたんですか?
はい。私の漫画ではけっこう定番のテーマというか(笑)。ほぼ毎回、家族関係を取り入れたお話にしているので、この作品もその一環という感じでした。
実は一番サイコパス?「お父さん」が生まれるまで
―― 本作のどんでん返しである「実はお父さんが一番やばい」というのは、どのあたりで思いついたのでしょうか?
最初からです。もともとは私自身の疑問がスタートだったんですよ。
「理解のある彼くん」っていう言葉が生まれるくらい、「世の中には、こういう人がたくさん存在するものである」とされているでしょ? ちょっとメンタルに弱い部分を抱えた女性と、それを支える理解のある彼くん、という構図。でも、「理解のある彼くん」のほうが深掘りされることってあるかなと思って。
―― 確かに……。「理解のある彼くん」って、時には登場人物にとって都合のいい存在として描かれがちですもんね。
そうそう。都合がいいからこそ、「理解のある彼くん(笑)」ってちょっとネタっぽく言われてしまうところもあったり。でも、「じゃあどうして、そんなに彼らは理解があるんだろう?」とは考えない。
だから、理解のある彼くんの内面―― 彼らがみんなそう(=『娘の弁当』に登場する父親)というわけではないけれど、私が描く「理解のある彼くん」は内面に「闇」を抱えているんです、というのを描きました。
―― なるほど。まさに、あのお父さんを「理解のある彼くんの究極形」というふうに表現したポストもあったので、ぱん太さんの狙いはしっかり読者さんに伝わっているなあとお話を伺っていて感じました。
うれしいです(笑)。
―― お父さんにとっては、幼少期にいじめられたのを桃ちゃんが助けてくれたことが一番の原動力なんですよね。
そう。子どもの頃のその思い出が、彼にとってはすごく大事なものだった。それに人生をかけてしまうほど。それはもう生まれ持った「気質」なのかなって思います。
タイトルはお父さん視点でも成立するWミーニング
―― 作品を通して、ぱん太さんの中でここは上手く描けたと感じたところはありますか?
桃子ママのスイッチが切り替わる瞬間をけっこう上手に描写できたかなと思います。
自分の娘の前では母としてありたいのに、時に「あの両親の娘」に戻ってしまう自分がいる。時には妻としての自分が出てしまったり、女としての自分が出てしまったり。会社でも上司としてちゃんと振る舞いたいのに、それでもやっぱり他の面が出てきてしまう。
読者さんも桃子に「急にどうした!?」と思ってくれたようなので、そう思ってくださるってことは上手く描けたのかなと思います。
―― 「もしかしてこれが地雷なのかな?」と探りながら読んだ読者も多いと思います。あと、『娘の弁当が気に入らない!』というタイトルですけれど、これってダブルミーニングなんですよね。
そう! 気づいてもらえてすごく嬉しいです(笑)。
―― お母さん視点かと思いきや、お父さん視点でもあり、「僕の大好きな桃ちゃんを変えようとする」娘の弁当が気に入らない、という意味だったんだなと。
そういうのが大好きなんですよ! 最後の展開を見て「そういうことだったのか!」という気持ちになれる、このスカッとする感じが大好きで。
―― じゃあタイトルは早い段階で、これしかないなと決めていた?
そうです。思いついたときに「よし、これにしよう」と。
―― 最初はタイトルから、母娘の不仲関係を描いた物語だという印象を受けたんですけど、そんな単純な構造ではないとわかる感じがとっても痛快でした。いつもタイトルはどういうふうに考えていますか?
ぱっと思いつくことが多いかなあ。KADOKAWAさんともお仕事をしているんですが、毎作品、タイトルをつけるのって本当に難しいなと思って。
わかりづらすぎてもウケないですし、逆になんか……たとえばこの作品で言ったら、『母親は娘が弁当を作ることに嫉妬している』とか、あまりに単純すぎてもなんかつまらないじゃないですか。そのさじ加減が難しい!
『娘の弁当』は序の口…続編『反面教師』の執筆秘話
―― 続編である『母は私の反面教師』についてもぜひ聞かせてください。個人的には、魚谷家にとっては『娘の弁当』で起きた事件も氷山の一角に過ぎなかったと判明するのがかなり衝撃でした。
ふふっ。普通に考えて、あの家族の問題があれだけで済むわけないんです(笑)。
―― 『娘の弁当』の時点で、胡桃ちゃんはお母さんにひどいことをされてもあまり反抗しないんだなと思っていたんですが、『反面教師』を見ると、「あっ、胡桃ちゃんも後ろめたい部分があったのか……」という。
だって、現実世界もそうじゃないですか。たとえば、どこかの家庭で起きた事件を見たときに、当事者の子どもが「それでも私は母を愛しています」なんて言ったら、何も知らない人たちは「なんで?」って思っちゃうけど、絶対にそれまでのいろいろな軌跡があったからこそ、そう言ってるわけで。
私の漫画では、そういうこともちゃんと描写していけたらいいなあと思います。悪役がなんかいらんことして、こっちが成敗して、「勝ったぞ! 関係終わり!」というシンプルな話ではつまらない。現実世界ってそうではないじゃないですか。
虐待されてた子が「当時はひどいことをされたけど、今は距離をとってときどき連絡するぐらいでうまくやってます」みたいなことを言うと、「そんなのもう縁を切ったらいいじゃない」って言う人もいるけど、本人たちの中ではそれだけではないんだろうなって。そういう部分を、あの続編でちゃんと補完できてよかったなと思います。
―― お兄ちゃんも、良き理解者かなと思ったらそういうわけでもなかったですし……。でも家族ってそうだよな、みんながみんな都合よく動いてはくれないよな、というのをすごく感じました。
そう。みんながみんな自分勝手に動くし、誰もお互いをコントロールできないんです。
―― 言わないとわかり合えないけれど、言ったとしてもわかり合えるとは限らない。
あのお父さんに誰が何を言おうと、あの人は変わらないと思うし(笑)。
―― (笑)。『反面教師』のラストでお父さんがとうとう大爆発しますが、読者的には「このときを待ってたんだ!!」とある意味で胸熱な展開でした。今後、お父さんのバックボーンが深掘りされる可能性ってあるんでしょうか?
それは需要があればもちろん(笑)。でも、大丈夫な範囲でネタバレをすると、実はお父さんも家庭環境に問題がありました!とかではないんです。
―― ないんですね!?
さっきも言ったけれども、彼は子どもの頃のあのできごとが心に残っていて、それがどんどんどんどん膨れ上がっていってしまって。……ちょっとなんか異常気質な人なんです(笑)。
魚谷家は母親中心すぎる家族。ゆえに不安定
―― 思い返すと、胡桃ちゃんとお母さんが言い合いになっても、お父さんって必要以上に干渉してこないんですよね。たとえ我が子であっても、桃ちゃん以外は本当にどうだっていいんだなと……。では、『反面教師』の中で描けて良かった部分はありましたか?
連載中にフォロワーさんがくれた感想で嬉しかったものがあるんですけど、「桃ちゃんってちょっとずつ成長してるよね」って。
たとえば最初のほうで、胡桃ちゃんが女の子っぽい格好をしたいって言ったことからトラブルが起きるんですけど、その何年か後の胡桃ちゃんを見ると、ちゃんとかわいいお洋服を着ていて。フォロワーさんたちがそれに気づいてくれたんですよ!
「桃ちゃんはあのできごとを経て、かわいいお洋服を許したんだね。じゃあ桃ちゃんはちょっとずつ変わってるんだね」っていうことに気づいてもらえてすごく嬉しかった。
―― 確かにそうですね!『娘の弁当』でもかわいい格好をして、髪も伸ばしてますし。
そういうところをちょっとずつ描いているので、それがちゃんと読者さんに伝わっているのが本当に嬉しいです。
―― でも、お父さんは桃ちゃんが成長するのをきっと許しませんよね……。レベルが上がってもお父さんに全部リセットさせられてしまうというか、そのことに桃ちゃんが気づいていないのも、とてつもない構図だなと感じました。
そうなんです(笑)。でも、やっぱりお父さんがコントロールしきれるところではないと思うので、いずれは彼らもうまくいくのではないでしょうか?(笑)
―― 「桃ちゃん負けないで!」っていう気持ちになっていきますね。ぱん太さんから見て、あの一家はどういう家族だと思いますか?
もう本当に崖っぷち……とは違うなあ。でも、ちょっと押しただけでぱんっと壊れそうな、不安定なガラスのような家族だと思っています。
―― そんな家族が今後、夫婦ふたりだけで過ごすわけですもんね……。
魚谷家の中心が桃ちゃんすぎるな、と私は思っていて。つまり、家族4人をつなぎとめる共通点が「桃ちゃん」しかない。
―― 本当だ……。そのポジションは決してお父さんではないですもんね。
桃ちゃん第一のお父さんはもちろん、お母さんの愛を一心に求めている隼人くん、桃ちゃんの期待の星であり桃ちゃんと一番向き合ってきた胡桃ちゃんがいて、じゃあこの3人同士のつながりはどうか?って言われたら……。全員桃ちゃんに対するひとつの矢印だけなんです。
だから仮に……たとえば桃ちゃんが早くに亡くなってしまったら、その瞬間にこの家族はもう一生、お互い連絡をとらないんじゃないかなと私は思います。
―― そういう意味では、桃ちゃんがまるで扇の要のような。本当に大切な存在なんですね。
そう。だからそこに何かあったらもう散り散りになるという意味で、とても不安定な家族だと思います。
―― 実際、そういう家族もきっとありますよね。1人いなくなったら、もう家族から他人になっちゃいそうな関係性の家族って、現実でもそこまで珍しくないのかなって今お話を伺っていて感じました。
うん、私もそう思います。
―― 個人的には、ここまで考察できる描写がたくさんある作品なので、ゆくゆくはドラマ化してほしいなんて思ってしまうのですが、ぱん太さんとしてはいかがでしょうか?
ドラマ化!? 大歓迎!
そんなの、もう夢です!! 一度でいいから、人生でそんなことが起きてほしい……!
執筆中の『婚活クロスロード』は読者参加型の作品
―― ぱん太さんご自身についてもお伺いしたいんですが、作品のふとした部分にミステリーやサスペンス的な要素を入れるのがすごいと思いまして。ご自身もそういうジャンルの作品がお好きなのでしょうか?
実を言うと、本格的に興味を持ったのは『ママ友4人の誰かが夫と不倫している』(昨年11月30日発売)を描いたあたりからで。KADOKAWAさんから出した作品なんですが、その編集者さんがミステリー好きで、それをきっかけに興味を持ちました。
『娘の弁当』を描いていたときも、自分ではミステリーやサスペンスっぽいとは全然思っていませんでした。ただ、以前からどんでん返しが好きなので、そういうものを描こうと思ったら、自然とミステリっぽくなるのかなと思っています。
―― ぱん太さんはドイツにお住まいですが、普段はどういうスタイルで漫画を描いてらっしゃるんでしょうか?
子どもが学校に行っているあいだにガーッて描いてます(笑)。
―― では、ネタ探しはどのようにやってらっしゃいますか?
家事とかをしながら思いつくことが多いです。
自分の人間関係から着想を得ることもありますね。会話の流れで感じたことをきっかけに、「これはどういう心理なんだろう?」と調べたりして、そこから考えたりもしています。
―― 現在執筆中の『婚活クロスロード 〜運命を決める4つの選択肢〜』についても聞かせてください。
この作品の一番面白いところは、やっぱり読者さんのアンケート結果で展開が決まる部分です。ただ、どの回答が正解というわけではなくて、言ってしまえば「どんな道を選んでもトラブルは起きて、そしてどんなトラブルであっても大抵は解決することができる」のがポイントです。
ぜひ、どんどんアンケートに参加して、一緒にストーリーを作り上げていってほしいです。
婚活クロスロード〜運命を決める4つの選択肢〜
【1】主人公・天道樹里は30歳目前で彼氏にフラれたので婚活を始めることになった💍
(0/9)#漫画が読めるハッシュタグ pic.twitter.com/hA35M2fZGJ
— ぱん田ぱん太❤️「ママ友4人の誰かが夫と不倫している」電子書籍発売中 (@pandapantade) December 21, 2024
―― やはり『娘の弁当』のような展開を期待するユーザーも多いと思いますが、どのルートでも何かしらの衝撃展開が訪れることは間違いないでしょうか……?
そんな感じです!「このルートは平和だった!」っていうのはないと思ってください(笑)。
ぱん田ぱん太(ぱんだ・ぱんた)
ライブドアブログ公式ブロガー。ドイツ在住のシングルマザーで、ブログ「ぱんをたずねて2000里ちょい」をはじめ、自身のSNSアカウントにて漫画作品を発表している。2024年11月30日に新作不倫ミステリ『ママ友4人の誰かが夫と不倫している』(KADOKAWA)を発売。最新作『婚活クロスロード 〜運命を決める4つの選択肢〜』をXにて発表中。
・ブログ「ぱんをたずねて2000里ちょい」:https://pandapantade.blog.jp/
・公式Xアカウント(@pandapantade):https://x.com/pandapantade
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