水循環を観測するセンサAMSR3のデータ提供開始
宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)は、気象予報精度向上などに貢献する次世代観測センサ「高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)」のデータ(標準プロダクト※1)提供を、本日6月30日より開始します。AMSR3は、温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」(GOSAT-GW)に搭載された観測センサです。本データは、日々の気象予報および水災害をもたらす豪雨・台風の進路予測の精度向上に貢献するほか、漁業における好漁場探索や、効率的な船舶航行の支援などにも役立てられます。
標準プロダクトの内容
2026年6月末をもってAMSR3の初期校正・検証作業※2を完了し、標準プロダクトの提供を開始します。提供する標準プロダクトは、「輝度温度プロダクト」と「地球物理量プロダクト」の2種類で構成されます。
- 輝度温度プロダクト:AMSR3が捉えるマイクロ波の強さを、温度に変換した基礎となるもの
- 地球物理量プロダクト:輝度温度プロダクトをもとに、「降水量」や「海面水温」など、地球の水に関する量を算出して情報化したもの
今回提供を開始するプロダクトの一例として、地球物理量プロダクトの一つである降水量プロダクトについて、図1に示します。

図1:AMSR2(左)とAMSR3(右)による月平均降水量(2026年3月)の比較
白は降水量0mm/h、色付きは降水量の分布、グレーは欠損域を示す。
AMSR3では、高緯度域を含むより広い範囲で降水量を推定できている。
図1で示すとおり、2012年打上げの「しずく」(GCOM-W)搭載のAMSR2(左図)では、降雪※3を含む降水量の推定が難しかったため、高緯度帯を中心に欠損域(グレー)が残っていました。一方、AMSR3(右図)では、欠損域がほぼ解消しており、地球全体の降水量(降雨および降雪)をより広く把握することができるようになりました。この把握能力の向上には、AMSR3で新たに追加した観測チャネルが寄与しています。
開発の背景とAMSR3の特徴
約25年の水循環変動観測の実績を持つAMSRシリーズ※4は、地球の表面(陸・海)や大気などから自然に発せられるマイクロ波を観測し、水循環に関する様々な情報(海面水温、降水量、海上風速、海氷密接度、積雪深、土壌水分量など)を捉えています。
AMSR3を開発した背景として、先代にあたるAMSR2を設計寿命の5年を超えて運用している現状がありました。そのため、AMSR2のミッションを継続するとともに、利用者の新たなニーズに応えるためにAMSR3を開発しました。
こうした経緯を踏まえAMSR3では、雪や高層の水蒸気などに感度がある5つの新しいチャネル※5を追加しております。新チャネルにより、高緯度帯を含む全球規模の降水(降雨・降雪)全容を詳細に観測することが可能になり、気象庁・各国気象機関が行う数値予報による日々の気象予報、および台風進路予測などの精度向上への貢献が期待されています。
プロダクト活用例
① 気象予報
雨だけでなく雪も含めた降水量の推定や水蒸気の情報の把握に役立ちます。新たに追加した高周波チャネル※6による輝度温度プロダクトは、気象庁や各国気象機関が日々の気象予報に用いる数値気象モデルに導入される予定です。現在その準備を進めており、豪雨の発生範囲や、台風の進路・勢力の予測精度が向上すると期待されています。
また、このプロダクトは、豪雨や干ばつといった水に関する災害の監視などにも使われているJAXAの衛星全球降水マップ(GSMaP)にも活用されます。さらに「水災害・水資源管理」という重点テーマ※7のもとで目指している国際協力・産業上の便益創出に向けても、重要な役割を果たします。
② 漁業
魚は種類ごとに、好む水温が異なります。雲を透過して定常的に観測できるAMSRシリーズの海面水温プロダクトは、魚が集まりやすい漁場を探すのに役立ちます。
これまでのAMSR2では、沿岸に近い海域の海面水温を正確に把握することが難しく、主に沖合や遠洋での漁業に利用されてきました。AMSR3では、利用者の要望を踏まえて新しい周波数帯を追加したことで、従来よりも沿岸に近い海域の海面水温や海上の風速も把握できるようになりました。これによりイワシ・サバ・アジなどが多く生息する大陸棚の海域も観測できるようになり、魚の種類に応じた効率的な漁場探索に貢献します。また、漁業者の負担軽減や操業判断の高度化、さらには養殖業における環境管理にも役立ちます。
③ 航行支援
船舶が安全かつ効率よく航行するためには、海面水温の把握が重要です。例えば日本周辺では、暖流である黒潮の流れを把握するために、海面水温の情報が使われています。可視光や赤外線のセンサで観測する「ひまわり」などの気象衛星は、雲に遮られると海面の様子を捉えにくくなることがあります。一方AMSR3は、雲の影響を受けにくいマイクロ波で観測できるため、黒潮の流れを安定して把握することができ、船舶の経済的な航行に役立ちます。
さらに、南極観測船「しらせ」のように、極域や海氷域を航行する船舶では、海氷の情報が航路を決めるうえで欠かせません。極域では、冬になると太陽光が届かず、雲に覆われることも多いため一般的な観測手段では十分な情報を得ることが難しくなります。その点で、雲を透過し広い範囲を繰り返し観測できるAMSRシリーズのプロダクトは非常に重要です。AMSR3が提供する海氷密接度や海氷の移動情報のプロダクトは、こうした環境での航路判断を支え、極域における安全な航行に貢献します。
提供プロダクトの利用方法
AMSR3の標準プロダクトは、JAXAの地球観測衛星データ提供システム(G-Portal)を通じて提供されます。ユーザ登録後に、誰でも無償でダウンロードできます※8。JAXAは、これらのプロダクト提供を通じて新たな利用ニーズに応えるとともに、AMSR3のミッション目的である水循環変動の把握と予測、ならびにその成果の社会実装に貢献していきます。
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※1
標準プロダクト
プロダクトとは、衛星が取得した観測データを、ユーザが利用しやすいように処理・解析し、ファイル化したものです。標準プロダクトは、ミッションの目的達成に必要な基本的なプロダクトとして、これまでの観測実績や検証結果を踏まえてJAXAが提供するものです。 -
※2
初期校正・検証作業
AMSR3が取得した観測データについて、センサ特性や地上処理系を評価し、必要な補正・調整を行うことで、輝度温度および地球物理量の精度向上を図る作業です。 -
※3
降雪
地球物理量プロダクトの一つである降水量プロダクトには、降雨と降雪が含まれます。熱帯域では主に降雨を、地表面が0℃以下の高緯度帯では降雪を示します。 -
※4
AMSRシリーズ
AMSRシリーズは、2002年打上げの米国Aqua衛星搭載のAMSR-E、同じく2002年打上げの「みどりII」(ADEOS-II)搭載のAMSR、2012年打上げの「しずく」(GCOM-W)搭載のAMSR2があります。 -
※5
雪や高層の水蒸気などに感度がある5つの新しいチャネル
AMSR2には降雪や高層の水蒸気に感度のある周波数帯がなかったため、数値気象予報や台風進路予測などでの貢献が限定的でした。AMSR3の新規5チャネルのうちの165.5, 183.3±7, 183.3±3 GHzにより、この課題を克服しています。 -
※6
新たに追加した高周波チャネル
※5に記載した165.5, 183.3±7, 183.3±3 GHzの3つの高周波チャネルが該当します。これらの周波数は雲の中に漂う氷粒子や地上に降り注ぐ雪、中層・上層の水蒸気などにより高い感度を持ち、気象予測の精度向上に貢献できます。
これら3チャネルを含め、新設の5チャネルの特徴については2025年9月5日付プレスリリース『「いぶきGW」(GOSAT-GW)搭載 高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)の初期観測結果』の図1などをご参照ください。
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※7
「水災害・水資源管理」という重点テーマ
地球観測衛星データサイトEarth-graphy「重点テーマ:水災害・水資源管理」のウェブページをご参照ください。 -
※8
提供するプロダクトの利用例については、こちらをご参照ください。
利用事例(G-Portal)
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(c)宇宙航空研究開発機構(またはJAXA)掲載URL
