先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)搭載Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-3)の初観測画像を公開
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、現在、2024年7月1日に打ち上げた先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)の初期機能確認運用を実施しています。今回、同衛星に搭載されたLバンド合成開口レーダ(PALSAR-3)(※1)により、2024年7月15日から17日(日本時間)にかけて初めての観測画像を取得しましたので公開いたします。
「だいち4号」では、人工衛星搭載の合成開口レーダとして世界で初めての実証となるデジタルビームフォーミング技術(※2)を用いて、前号機「だいち2号」の高い空間分解能を維持しつつ観測範囲を最大4倍に拡大したレーダ衛星であり、「だいち2号」とともに、災害発生時の状況把握や、森林分布の把握等の環境観測、海氷等の海洋観測などへの貢献が期待されています。
■観測幅200 kmの観測に成功
図1
(左)「だいち4号」PALSAR-3による関東地方および富士山付近の観測(分解能3m、観測幅200km)、観測日2024年7月15日
(右)「だいち2号」PALSAR-2による富士山付近の観測(分解能3m、観測幅50km)、観測日2022年11月23日(比較用)
※いずれの画像も、南北方向には70kmの範囲を表示。
■データの高速伝送について
図2
PALSAR-3による富士山周辺および東京都心の拡大画像 (図1(左)赤枠部分の抜粋)
「だいち4号」は地球観測衛星として世界最高性能(2024年7月現在)の3.6 Gbps(1.8
Gbps×2系統)の高速データ伝送が可能であり、これによって発生データ量が大きな高分解能(3m)の観測においても、HH偏波(水平偏波送信・水平偏波受信)およびHV偏波(水平偏波送信・垂直偏波受信)による2偏波観測が常時可能になりました。図1、図2の「だいち4号」画像は、この2偏波のデータから合成した疑似的なカラー画像で、緑色が植生、明るい紫色や黄緑色が市街地、暗い紫や黒は裸地や水面などを表します。偏波情報により地表の状況の判別が容易になることで、災害状況の把握や森林伐採の監視などへの活用が期待されます。
■今後の予定
ALOS-4プロジェクトチームは、プライムメーカの三菱電機株式会社様をはじめ衛星運用に携わる企業、機関等の皆さまとともに引き続き3か月間の初期機能確認運用を行い、「だいち4号」およびPALSAR-3が所定の機能を有することを確認した後、観測データの初期校正検証運用に移行する予定です。
■事業者募集について
なお、7月30日から「『だいち4号』PALSAR-3観測データを用いたデータ・サービス事業者の募集について」の公募を開始しております。詳細は下記URLをご覧ください。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2024/07/30/9597/index.html
※1
Lバンド合成開口レーダPALSAR-3(パルサースリー)
Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-3:Phased Array type L-band Synthetic Aperture
Radar-3)は、電波を地表面に照射し、地表面から反射される電波を受信することで情報を得る「だいち4号」に搭載されたセンサ。
PALSAR:「だいち」に搭載(2006年打上げ)
PALSAR-2:「だいち2号」に搭載(2014年打上げ)
※2
デジタルビームフォーミング技術
アンテナで受信した電波をオンボードで高速にデジタル処理し、位相の調整と信号の合成を行うことにより、アンテナのビーム指向方向を任意に生成する技術。これにより「だいち4号」では同時に最大4方向のビーム形成が可能。
■初画像観測について
初期機能確認運用の中で、2024年7月15日から17日(日本時間、以下同じ)にかけて「だいち4号」に搭載されたLバンド合成開口レーダ(PALSAR-3)の試験電波発射を実施しました。
取得した観測画像を別紙表1に示します。
初期機能確認運用では、「だいち4号」の持つ様々な観測モードが正常に機能することを順次確認しています。
画像の一部にノイズが見られますが、軌道上での機器の性能に応じた地上処理のチューニングの実施前であるためであり、現在実施中の初期機能確認運用および今後の初期校正検証運用において最適化を行う予定です。
観測日時 (日本時間) |
観測モード | 観測場所 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
① | 2024/7/15 11時7分 |
分解能3m、観測幅100km | 札幌~千歳~苫小牧 | 最初の1枚 |
② | 2024/7/15 23時38分 |
分解能3m、観測幅200km | 関東地方~富士山付近 | 本文の画像と同じ |
③ | 2024/7/15 13時43分 |
分解能10m、観測幅200km | ブラジル・ロンドニア州付近 | PALSAR、PALSAR-2 との比較 |
④ | 2024/7/16 21時10分 |
分解能1m×3m、観測範囲35km四方 (スポットライトモード) |
フランス・パリ周辺 | 最も詳細な観測が可能 |
■サンプルデータ(閲覧用)の公開
本プレスリリースで紹介した「だいち4号」による関東の観測画像について、GIS(Geographic Information
System:地理情報システム)ソフトウェアなどを用いて、観測画像を拡大して確認できるサンプルデータ(形式:GeoTIFF、ピクセルスペーシング:約20m)を以下のサイトにて公開しました。なお、正規の標準プロダクトは初期校正検証運用終了後に提供開始予定です。詳細は下記URLよりご覧ください。
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2024/07/31/9609/index.html
■「だいち4号」搭載PALSAR-3の観測①
分解能3m、観測幅100kmの観測モードによる札幌~千歳~苫小牧の観測画像(最初の1枚)
別紙図1
「だいち4号」搭載PALSAR-3による「最初の1枚」
(札幌~千歳~苫小牧、高分解能3mモード、観測幅100km、入射角約65度、偏波HH)
PALSAR-3は、初期機能確認を実施する中で、2024年7月15日午前11時7分頃に高分解能モード(3m分解能)を用いて初めての観測を行い、画像の取得に成功しました。別紙図1はこの観測で得られた北海道(札幌~千歳~苫小牧)の画像です。PALSAR-3は様々な観測幅や分解能の観測モードを持ちますが、この時は100km幅で画像を取得しました。
■「だいち4号」搭載PALSAR-3の観測②
分解能3m、観測幅200km(標準的な観測モード)による関東地方~富士山付近の観測画像
別紙図2
「だいち4号」PALSAR-3による関東地方および富士山付近の観測
(分解能3m、観測幅200km)、観測日2024年7月15日
別紙図3
「だいち2号」PALSAR-2による富士山付近の観測
(分解能3m、観測幅50km)、観測日2022年11月23日(比較用)
別紙図4
PALSAR-3による富士山周辺および東京都心の拡大画像
別紙図2は、2024年7月15日午後11時38分頃にPALSAR-3の高分解能モード(3m分解能)で取得された関東地方および富士山周辺の観測画像です。3m分解能のモードで200km幅で観測を行い、画像の取得に成功したのはこれが初となります。別紙図3は比較例として、2022年11月23日の「だいち2号」搭載Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)の観測画像を示します。別紙図4は別紙図2の赤枠部分(富士山周辺、東京都心周辺)を拡大した画像です。PALSAR-2、PALSAR-3ともに南北方向には連続して長い観測が可能ですが、今回は南北方向については約70kmの範囲のみを表示しています。
「だいち4号」では、「だいち2号」と同じ3mの分解能(衛星搭載Lバンド合成開口レーダとして世界最高分解能)を維持しながら、観測幅を約50kmから約200kmと大幅に拡大し、高い分解能と広い観測幅の両立により、広域・同時多発的な災害発生時の状況把握が迅速に行われることが期待されます。また、観測幅の拡大に伴う観測機会の増加により、日本全土の高頻度な時系列観測(昼、夜の観測それぞれ年20回程度)が定常的に可能となり、地面の地殻変動やインフラの変位監視、農作物の作付け状況などの把握、森林伐採状況の早期把握など、平時におけるデータ利用の高度化、活性化も期待されます。
また、「だいち4号」は地球観測衛星として世界最高性能(2024年7月現在)の3.6Gbps(1.8Gbps×2系統)の高速データ伝送が可能であり、これによってデータ発生量が大きな高分解能(3m)の観測においても、HH偏波(水平偏波送信・水平偏波受信)およびHV偏波(水平偏波送信・垂直偏波受信)による2偏波観測が常時可能になりました。プレスリリース本文中の図1、図2の「だいち4号」画像は、この2偏波のデータから合成した疑似的なカラー画像で、緑色が植生、明るい紫色や黄緑色が市街地、暗い紫や黒は裸地や水面などを表します。偏波情報により地表の状況の判別が容易になることで、災害状況の把握や森林伐採の監視などへの活用が期待されます。
■「だいち4号」搭載PALSAR-3の観測③
分解能10m、観測幅200kmによるブラジル・ロンドニア州付近の観測画像(継続観測の重要性)
別紙図5
PALSAR(2007年)、PALSAR-2(2014-2015年)、PALSAR-3(2024年)による
ブラジル・ロンドニア州付近の観測画像の比較
別紙図6
別紙図5における赤枠部分の拡大図
別紙図7
別紙図5の観測範囲(赤枠)
PALSAR、PALSAR-2、PALSAR-3はいずれも森林の観測に適したLバンドの電波を用いた合成開口レーダであり、これまでの衛星で蓄積されたデータおよび今後のPALSAR-3による継続的な森林観測により、森林保全・管理や、気候変動対策に関わる森林分布の時間変化、バイオマス推定等への貢献が期待されます。
別紙図5は南米ブラジルの熱帯地方をPALSAR、PALSAR-2、PALSAR-3の高分解能モード(分解能10m)で取得された画像です(別紙図7の範囲)。PALSAR、PALSAR-2では3回の観測でカバーしていた範囲をPALSAR-3では1回で観測可能です。また、別紙図6は、森林伐採が進行している地域の一部を拡大したものです。これらの画像は別紙図4と同様に、2偏波観測データを用いて疑似的にカラーで表示していますが、緑色は森林、暗く見える部分は森林が損失した場所と考えられます。2007年のPALSAR、2014-2015年のPALSAR-2、2024年のPALSAR-3による観測画像を比較することで、暗く見える部分が拡がっている様子が分かります。このように、地球環境の変化を知るためには過去の観測データとの比較が必要であり、継続的な観測が重要となります。
■「だいち4号」搭載PALSAR-3の観測④
スポットライトモード(分解能1m×3m、観測範囲35km四方)によるフランス・パリ周辺の観測画像(詳細観測)
別紙図8
PALSAR-3によるフランス・パリ周辺のスポットライトモード画像
(黄色枠はPALSAR-2による観測範囲のイメージ)
赤枠部分は別紙図9にて拡大
別紙図9
別紙図8の赤枠部分拡大(パリ市内とパリオリンピック2024主要な会場)
別紙図8は、2024年7月16日午後9時10分頃にPALSAR-3のスポットライト観測モードで取得されたフランス・パリ周辺の観測画像です。スポットライトモードは、衛星進行方向の分解能を1mに向上した「だいち4号」で最も分解能が高く詳細な観測が可能です。「だいち2号」搭載のPALSAR-2では約25km四方の観測が可能であるところ、「だいち4号」のPALSAR-3では約35km四方と約2倍の面積を観測できます。また、PALSAR-3では新たに2偏波による観測がスポットライトモードでも可能となっており、別紙図4と同様にカラー表示しています。また、別紙図9は別紙図8の赤枠部分のパリ市内付近を拡大したもので、2024年パリオリンピックの主要な会場を白丸で示しています((1)メイン会場であるスタッド・ド・フランス、(2)ポルト・ド・ラ・シャペル・アリーナ、(3)コンコルド広場、(4)エッフェル塔スタジアム、(5)パルク・デ・プランス)。
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