最先端のシミュレーションによって明らかになった中間質量ブラックホール形成過程
ブラックホールの進化を理解する上でのミッシングリンクが、新しいシミュレーション技術と天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」によって、解き明かされようとしています。星団内での星同士の合体が、その鍵を握っているかもしれません。
現在観測されているブラックホールの多くは、太陽質量の100倍以下の小さなものか、10万倍以上の巨大なものかに分類されています。これらの中間にあたる、質量が太陽の数百倍から数万倍の「中間質量ブラックホール」の存在が、長年にわたり議論となっています。中でも太陽の数千倍の質量の中間質量ブラックホールは観測的な証拠が乏しく、宇宙のどこでどのように形成されるのかは多くの謎に包まれています。
この中間質量ブラックホールが存在する可能性があると注目されている天体が、「球状星団」です。球状星団は、重力によって結びつけられた数百万個の星が球状に分布する天体で、その中心に中間質量ブラックホールが存在することを示唆する観測結果が報告されています。球状星団の中でブラックホールが形成されるためには、星同士が次々と合体・衝突した結果、非常に重い星が形成される「暴走的合体」が起こる必要があります。では、どのようにして暴走的合体が起こるのでしょうか。これを探るためには、星団の一つ一つの星の運動をコンピュータ・シミュレーションで再現する方法があります。しかし、コンピュータの計算能力や計算アルゴリズムの問題から、これまで形成中の星団内での暴走的合体を再現するようなシミュレーションは実現できていませんでした。
この問題を解決するために、東京大学の藤井通子(ふじい みちこ)准教授らの研究グループは、星団進化シミュレーションコードを流体シミュレーションコードに組み込んだ新しい計算手法を開発しました。さらに、国立天文台が運用するスーパーコンピュータ「アテルイII」を計算に用いることで、世界で初めて、一つ一つの星の運動を再現した球状星団の形成シミュレーションを実現しました。星間ガス中における100万個を超える星の運動を正確に、かつ現実的な計算時間で再現することが可能となったのです。
このような手法を用いて、分子雲から星団が生まれる様子についてシミュレーションをした結果、形成途中の星団の中で星同士の暴走的合体が起こり、最終的に太陽の1万倍程度の質量を持つ超大質量星が形成され得ることが明らかになりました。星の進化理論に基づいて計算すると、ここで形成されたような超大質量星は、太陽質量の3千ないし4千倍の中間質量ブラックホールになると予想されます。
本研究によって、太陽の数千倍の質量の中間質量ブラックホールが、球状星団の中で形成され得ることが確かめられました。中間質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールと巨大ブラックホールを結ぶミッシングリンクです。そのため、本研究は中間質量ブラックホールの一つの形成過程を示したことに加え、いまだに解明されていない巨大ブラックホールの形成過程を理解する上でも、重要な意義があります。
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天文シミュレーションプロジェクト
クレジット:「国立天文台」NAOJ