重い星は軽い種からできる
大質量星の誕生が期待される領域をアルマ望遠鏡で観測した結果、これまでにないほど多くの「星の種」の発見に成功しました。大質量星がどのようにして誕生するのかは天文学の未解決問題の一つですが、多くの星の種のサンプルを用いることで、この問題を統計的に議論することが可能になりました。
質量が太陽の8倍以上の大質量星は、超新星爆発を起こしてさまざまな元素を宇宙に供給し、周囲の環境にも大きな影響を及ぼす、たいへんエネルギッシュで重要な存在です。しかし、太陽のような小質量星に比べるとその数はとても少なく、距離も遠いため、大質量星の形成過程には不明な点が多く残っています。
国立天文台などの研究者から成る国際研究チームは、大質量星の形成過程を探るため、その誕生が期待される39の領域をアルマ望遠鏡で観測しました。これらの領域には、星の材料となるガスと塵(ちり)から成る雲が、高い密度でかつ冷たい状態で存在しています。そして、星形成の兆候がこれまでに見つかっておらず、星が誕生する前の状態と考えられることから、今回の研究を進めるには最適な環境です。そして観測の結果、雲に埋もれている800個以上の「星の種」を検出することに成功しました。
小質量星の形成過程では、星の種はその質量の約30ないし50パーセントが星本体になりますが、残りのほとんどは星が作られる途中で宇宙空間に放出されてしまいます。大質量星の形成も同様と仮定すると、驚くべきことに、99パーセント以上の星の種は、その質量が大質量星を形成するために必要な質量に満たないことが明らかになりました。つまり、大質量星の誕生のためには、星の種が周囲のガスを取り込んで成長する必要があることを意味します。この結果は、大質量星には、小質量星とは異なる形成のシナリオが存在することを支持しています。
さらに研究チームは、星の種の分布、つまり密集の度合いについても調べました。星そのものの集団を見ると、大質量星はまとまって、小質量星は散らばって存在しています。このことから、星の種の段階でも、星の種の質量の違いによってその密集の度合いが異なることが期待されます。しかし、今回の観測で得られた統計データを分析した結果、期待に反して、星の種そのものの質量による密集の度合いには違いは見られませんでした。一方で、星の種そのものの物質密度によっては、密集の度合いが異なる様子が見られました。これは、物質密度の高い星の種が大質量星に成長する可能性を示唆しています。
研究チームの中心である、国立天文台で研究を進める東京大学大学院理学系研究科 博士課程の森井嘉穂(もりい かほ)さんは、「大質量星が小質量星とは異なる形成シナリオを持つ可能性を、これまでの研究よりも多くのサンプルからより確実に示すことができました。大質量星の形成の初期段階では、星の種の質量が大きいことよりもその物質密度が高いことのほうが、より重要なようです」と述べています。
この研究成果は、Kaho Morii et al. “The ALMA Survey of 70μm Dark High-mass Clumps in Early Stages (ASHES). IX. Physical Properties and Spatial Distribution of Cores in IRDCs”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2023年6月20日付で掲載されました。
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クレジット:「国立天文台」NAOJ