赤色矮星の周りに地球のような海惑星の存在を予測 – 国立天文台
|研究成果
赤色矮星(わいせい)の周りに形成される岩石惑星が適量の水を持つ可能性は、これまで推定されていたよりも圧倒的に高いことが、理論的に予測されました。今後の観測によって地球のような温暖な気候の海惑星が発見されることが、これまで以上に期待されます。
太陽系外に存在する惑星(以下、系外惑星)は、1995年に初めて発見されて以来、すでに5000個以上見つかっています。その中から、生命を宿す可能性のある系外惑星の発見に、現在期待が寄せられています。生命を持つ惑星にはどのような条件が必要になるか、理解は十分に確立していません。少なくとも、地球上の生命にとっては液体の水すなわち海、そして温暖な気候が必要です。実は、気候学的には、海の存在と温暖な気候の間には密接な関係があって、温暖な気候の維持には多すぎず少なすぎない“適量”の海水が必要になります。
惑星上の水が蒸発も凍結もせずに液体で存在するためには、主星から適度な日射を受けられる適度な距離の領域に、惑星が存在しなければなりません。このような領域はハビタブルゾーンと呼ばれます。地球ほどの大きさの岩石惑星でハビタブルゾーンにある系外惑星も、これまでに多数見つかっています。ところが、こういった惑星が必ずしも適量の水を持つとは限らないのです。地球の海水の起源としては、水を多く含む岩石または氷でできた天体が地球に飛来したことによって水を獲得した、と考えられてきました。このような考えに基づく従来の理論では、赤色矮星の周りのハビタブルゾーンでは、水をまったく持たない惑星か、水でできた惑星といえるほど多量に水を持つ惑星か、どちらかしか形成されず、適度な海水量の惑星は存在しないとされていました。赤色矮星のまわりには、適量の海水を持つ惑星は存在しないのでしょうか。
ただし、惑星が水を獲得する過程は他にも考えられます。原始惑星系円盤の中で惑星が成長する際に、大気として獲得した円盤内の水素ガスが、衝突合体の熱で溶融したマグマに含まれる酸化物と化学反応して、水が生成されるという過程です。今回、研究チームは、最新の惑星形成理論に基づいて惑星の質量成長や軌道進化を計算する「惑星種族合成モデル」を開発しました。そして、水生成の効果も取り入れた多様な惑星モデルを計算し、惑星が獲得する水の量を調べました。その結果、赤色矮星を主星とする系外惑星は、大気中の水生成によって、多様な水量を持つことができることが分かったのです。「地球と同じくらいの大きさで同じくらいの水量を持つ惑星は、数パーセントにものぼるのではないか」と、この研究を推進した東京大学大学院 博士課程の木村真博(きむら ただひろ)さんは説明しています。
地球から近い距離にある赤色矮星は、系外惑星を詳細に観測できる好対象です。すばる望遠鏡などを用いた探査計画では、赤色矮星の周りでハビタブルゾーンにある岩石惑星は、100個程度発見されると試算されています。「そのうちの数個は、地球のように適量の海水を持ち、温暖な気候を保持すると予測されます」と、この研究を指揮した国立天文台 科学研究部の生駒大洋(いこま まさひろ)教授は期待を述べます。今後このような系外惑星は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やアリエル計画などの赤外線宇宙望遠鏡を用いて大気の成分が観測され、本研究の予測が検証されていくことでしょう。
この研究成果は、Kimura and Ikoma “Predicted diversity in water content of terrestrial exoplanets orbiting M dwarfs”として、英国の天文学専門誌『ネイチャー・アストロノミー』に2022年9月29日付で掲載されました。
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クレジット:「国立天文台」NAOJ