通俗科学

ISSを含む地球低軌道活動の在り方に関する中間とりまとめ

Source: European Space Agency – ESA – Copyright CC BY-SA 3.0 IGO

令和3年2月9日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会

はじめに
○ 昨年6月に改訂された新たな宇宙基本計画において、2025年以降の国際宇宙ステーション(ISS)を含む地球低軌道活動について、各国の検討状況も注視
しつつ、具体的に検討を進めるとの方針が示されたところである。
○ 現時点では、ISS計画参加5極間で運用延長に関する方針が決定されていない状況であることを踏まえ、本中間とりまとめにおいては、今後遅滞なく意思決定
を行うことができるよう、これまでの経緯や成果を整理しつつ、今後の意思決定に当たって検証すべき項目の整理を行った。
○ この際、ISSにおける活動が、アルテミス計画を含む深宇宙探査活動の展開と、政策的にも技術的にも密接に関係していることに留意した。

1.ISS及び国際宇宙探査に関する経緯
○ 前回ISSの運用を延長するに当たっては、米国から2021年以降2024年までの延長への協力の打診を受けて、国際宇宙ステーション・国際宇宙探査
小委員会及び宇宙開発利用部会並びに宇宙政策委員会での審議を経て、2015年に日米オープン・プラットフォーム・パートナーシップ・プログラム(US-JP OP3)の枠組みに合意し、日本として延長を決定した。
○ 以降、ISSは、費用対効果の向上を図りつつ、その特殊な環境を生かした研究開発のプラットフォームとしての利用が進められる一方で、国際宇宙探査における有人活動を推進するプラットフォームとしての役割を担ってきた。
○ 2019年10月、アルテミス計画への参画を政府として決定した。これを受けて、昨年7月には、萩生田文部科学大臣とブライデンスタインNASA長官が
月探査協力に関する共同宣言に署名し、具体的な協力内容や日本人宇宙飛行士の活動機会について確認した。

○ また、昨年6月に改訂された新たな宇宙基本計画において、2025年以降のISSを含む地球低軌道活動について、以下の方針が示された。ISSを含む地球低軌道における我が国の2025年以降の活動については、各国の検討状況も注視しつつ、その在り方について検討を進め、必要な措置を講じる。
2.アルテミス計画を踏まえた、ISSの新たな方向性
アルテミス計画により、火星を見据えた有人月探査計画が具体化しつつあることを踏まえ、以下のように、ISSに関しては、今後の更なる深宇宙探査のための実証
の場としての位置付けが強調されてきている。
○ ISS計画参加5極を含む25の宇宙機関が参加する国際宇宙探査協働グループ(ISECG: International Space Exploration Coordination Group)では、国
際協働による宇宙探査に関するシナリオとして、国際宇宙探査ロードマップ(GER: Global Exploration Roadmap)を作成した。2018年、ISECGのGER
第3版において、「ISSは宇宙へ人類が進出するための重要な技術を発展させる実証の場」と位置付けられた。
○ 米国においても、ISSを月以遠の深宇宙探査のための実証の場として位置付けており、昨年4月にNASAが公表した持続的月探査・開発計画「NASA’s Plan for Sustained Lunar Exploration and Development」においても、「ISS及び新たな商業用設備を探査技術及び新興の商業利用を育成す
るための実証の場として活用」と記載されている。
○ 我が国においても、昨年6月に改訂された宇宙基本計画において、ISSを含む地球低軌道活動の新たな方向性について、以下のとおり位置付けられている。
 国際宇宙探査で必要となる技術の実証の場としてISSを活用するとともに、ISSにおける科学研究及び技術開発の取組を、国際協力による月探
査活動や将来の地球低軌道活動に向けた取組へと、シームレスかつ効率的につなげていく。

3.ISSのこれまでの活動及び成果の総括と今後の取組
我が国が2024年までのISS運用延長への参画を決定した2015年頃の状況と、2020年現在の状況を比較すると、国際宇宙探査で必要となる技術の実証の場
としての活用及び利用の拡大のそれぞれについて大きな進展が見られ、残りのISS運用期間を通じて更なる進展が計画されている。一方で、これまでの活動は、日本
実験棟「きぼう」が国・JAXAによって運用されていることが前提となっており、ポストISSを見据えた民間事業者の参画拡大に向けた取組が始まっているものの、制度面の整備を含め、今後も中長期的な取組が必要である。
(1) 深宇宙探査技術の獲得・蓄積状況
○ 深宇宙補給技術について、宇宙ステーション補給機「こうのとり」によるISSへの物資補給を100%(2009年~2020年までの全9機)成功させ、補給
機の自律飛行技術、ランデブー技術及び運用管制技術を獲得した。今後、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)による物資補給機会を活用し、将来
のゲートウェイへの補給や深宇宙探査のための自動ドッキング技術の実証を行っていく。
○ 有人宇宙滞在技術について、「きぼう」の10年以上の運用及び日本人宇宙飛行士の活動を通じて、長期間にわたって有人宇宙施設の機能を維持し、安全に運用管制する技術、搭乗員の生命を維持するための生命維持技術や健康管理技術、搭乗員の選抜・訓練技術といった有人宇宙滞在技術やノウハウを獲得・蓄積した。これらの技術は、今後、完全空気再生技術や有人与圧ローバ運用技術、宇宙飛行士の育成など、月面活動や更なる深宇宙探査に向けた技術として更に高度化させていく必要がある。
(2) 「きぼう」利用の拡大状況
○ 科学や社会的課題解決のための利用について、タンパク質結晶生成、可変重力下でのマウス飼育、静電浮遊炉等の日本独自の宇宙利用技術に重点化した実験プラットフォームとしての確立を図った。このプラットフォームを活用して、新薬設計、健康長寿研究、材料データ取得等による知の創造や外部研究機関や民間企業との連携による社会課題解決に向けた取組を行ってきた。また、船外環境を活用した科学観測と国内外の観測施設との連携による成果拡大の取組を行ってきた。
○ 有償による民間利用について、例えば、創薬ベンチャーとの戦略的なパートナーシップ契約による新薬設計への貢献、衛星間や地上との超高速データ通信に向けた小型衛星搭載用の光通信機器の早期実証、「きぼう」で技術実証された膜展開式軌道離脱装置の民間企業による衛星での実証など、2019年度の利用件数は2015年度と比較して5倍以上となった。
○ 国際協力について、前回のISS運用延長時に米国と締結したUS-JPOP3の枠組みの下、マウス実験や静電浮遊炉実験において軌道上での利用リソースや回収した実験サンプルの交換・相互共有、日、米、アジア等の学生を対象とした人材育成プログラムの実施など、日米協力を通じ相乗的な成果の創出や関係強化に繋がる取組を進めた。また、国連宇宙部や日本の大学との連携による超小型衛星放出、タンパク質実験、船外実験の機会提供や教育プログラム等により、アジア・アフリカ等の宇宙新興国の宇宙利用促進、人材育成などによる関係強化を図った。
○ 地上への応用・波及効果について、例えば、国の指定難病であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) に有効性の高い治療薬候補の創出への貢献や、宇宙食や高機能性の被服等の有人宇宙技術に関する地上製品への展開(スピンオフ)などを進めてきた。
○ 人材育成について、ISSに滞在する日本人宇宙飛行士との交信イベントや講演をとおした若者への働きかけ、超小型衛星放出等の機会を通じた衛星開発等の実践機会の提供や「きぼう」におけるロボットプログラムコンテスト等の取組を通じて、日本・アジア等の次世代を担う人材の育成に貢献してきた。
(3) 民間事業者の参画拡大に向けた取組状況
○ 超小型衛星放出プラットフォームや一部の船外実験プラットフォームの利用促進事業について、2018年より民間事業者への移管を進めており、当該事業者が受注した軌道上実験の提案件数は、2018年度は14件、2019年度は20件と増加した。また、異業種も含めた民間企業との事業共創活動等により「きぼう」の新たなビジネス・サービスの需要喚起を進めている。
○ 他方、現段階で「きぼう」利用事業全般が民間主体の事業として成立するほどの収益性はなく、それを可能とする利用需要拡大に向けた戦略的な利用価格の設定やビジネス実証のための機会を支援する制度面の検討を含め、地球低軌道利用需要の成長を背景とした民間主体の活動の大幅な活性化等も必要であり、中長期的な取組が必要である。

4.将来のISSを含む地球低軌道の利用ニーズ及び期待今後の地球低軌道活動については、ISSの寿命を踏まえた国際的な協力枠組みの展開や輸送等技術の進展などに関し、将来的な見通しが必ずしも明らかではないものの、宇宙基本計画に基づく方向性を踏まえ、現段階で想定される利用ニーズや期待は、以下のように考えられる。
○ 2040年代の地球低軌道活動の姿としては、深宇宙探査等に向けた持続可能な研究開発基盤として宇宙環境利用が定着していることや、有人宇宙滞在の場として多様な宇宙活動の進展が図られていることが想定される。
○ これに向けて地球低軌道活動においては、①国際宇宙探査活動等に寄与する技術の開発・実証の場、②社会的課題解決・知の創造・人材育成等に繋がる継続的な成果創出の場、③民間による商業利用の場の3つが持続的な形で整備されていくことが考えられる。
○ これら3つの場に対する具体的なニーズや期待としては、以下が挙げられる。
① アルテミス計画等の国際宇宙探査計画の進展に伴い、我が国として、火星など深宇宙探査に向けた更なる技術実証を地球低軌道において行っていくことが必要である。
② 産学官による、科学研究、社会的課題解決、軌道上実証等に関する地球低軌道の利用が引き続き期待されている。
③ 地球低軌道における経済活動として、将来的に、宇宙旅行を始めとする宇宙体験や、超小型衛星の放出等、民間利用の拡大が見込まれている。
5.将来のISSを含む地球低軌道における活動の在り方
昨年6月に改訂された宇宙基本計画において、ISSを含む地球低軌道活動の役割として以下のように記載された。前項及びこれら宇宙基本計画における記載を踏まえると、今後、2025年以降のISS運用延長の可否を判断していくにあたっては、以下に示した事項について検証していくことが必要と考えられる。

(宇宙基本計画における記載)
○ 費用対効果を向上させつつ、宇宙環境利用を通じた知の創造に引き続き活かす
○ 国際宇宙探査で必要となる技術の実証の場としてISSを活用する
○ ISSにおける科学研究及び技術開発の取組を、国際協力による月探査活動や将来の地球低軌道活動に向けた取組へと、シームレスかつ効率的につなげていく
○ 新たなビジネス・サービスの創出を促進する
○ 民間事業者の参画拡大に向け、サービス調達や運営委託等民間事業者の利用主体としての裁量や役割を増大させる方策や、需要拡大に向けて必要
となる支援制度等について具体的な検討を進める
○ 我が国の強みを活かした形での国際協力による対応の可能性も含め、我が国の地球低軌道における経済活動等の継続的な実施と拡大を支えるシステ
ムの具体的検討及び必要な要素技術・システムの研究開発を進める【2025年以降のISS運用延長の可否判断に当たって必要な検証項目】
○ 国際宇宙探査を見据えた地球低軌道活動のビジョンが明確に設定できていること。この際、ISSの寿命を踏まえた国際的な協力枠組みの展開等が必ずしも明らかになっていないことも踏まえた柔軟なビジョンであること。
○ 更なる国際宇宙探査に必要な技術の獲得が見込まれること。
○ 社会的課題の解決、科学的知見の獲得、国際協力等のために、ISSの利用価値が高く見込まれること。
○ 若手が宇宙環境での実験・研究を経験する場としてISSを活用することで、宇宙活動を担う人材を長期的・継続的に育成する好循環を構築できること。
○ 民間が主体となった利用へのシームレスな移行が見込まれること。そのための方策(例えば、需要拡大に向けた支援制度等)が実施可能であること。
○ 費用対効果の向上のためのコスト削減の方策の実施が見込まれること。

6.今後の展望
○ 米国議会でのISS運用延長決定後、前項の検証項目について、最終とりまとめに向けた検討・議論を行う。

各国の状況
有人宇宙探査の活動範囲が地球低軌道から月、火星など更なる深宇宙へと広がりを見せる一方で、そのアプローチは各国様々である。
(1) 米国
○ 地球低軌道、月及び火星を有人宇宙探査の主要領域として設定し、技術開発と実証を進めながら地球近傍から遠方へ活動領域の拡大を図っている。
アルテミス計画に基づき、月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設や有人月面着陸・拠点化に向けて、官民パートナーシップを活用した取組を進めている。
○ 深宇宙探査については国が主導しつつ、将来の地球低軌道活動については、ISSの運用を民間事業者に移管しながら、月・火星探査のための実証の場として活用する方針である。
○ 地球低軌道活動が持続可能な商業活動に至るまで、政府はアンカーテナント等の関与を行うことで民間の利用を支え、民間移行後にはNASAが一顧
客(One of customers)となるべく商業化を推進している。
○ ISS運用については、議会上院においては少なくとも2030年まで、また、下院においては少なくとも2028年まで延長することを含めた法案が提出され、審議されている。
(2) 欧州
○ 2019年に開催された欧州宇宙機関(ESA)閣僚級会合において、ISSを含む地球低軌道(有人)、月探査(有人・無人)及び火星探査(無人)を相互に関連する主要領域と位置付けられた。
○ アルテミス計画に対しては、ゲートウェイ向けの国際居住棟(I-HAB)、燃料補給システム及び展望機能(ESPRIT)の開発並びに有人宇宙船(Orion)向けサービスモジュール(ESM)の提供等により協力を行う。
○ ISS運用については、2030年までの延長方針が示されており、ISS計画の枠組みを通じ、国や宇宙機関、民間事業者のパートナーシップのもと、宇宙活動の持続可能性を高めていく方針となっている。
○ ISSにおける商業利用サービス(研究開発目的)の促進や、地球低軌道及び月での商業活動に対する需要喚起等を見据えたビジネス創出の枠組みを構築中である。

(3) カナダ
○ アルテミス計画への参画を決定しており、月面技術開発、宇宙空間での実証及び科学ミッションを支援する月面探査加速プログラム(LEAP)を実施中である。ISSで培ったロボットアーム技術を活かし、ゲートウェイには、先進的な次世代人工知能対応ロボットアーム(Canadarm3)を開発することで協力する。
○ 2025年以降のISS運用延長に係る方針は示されていない。
(4) ロシア
○ アルテミス計画への参加意思は表明されていない。
○ 月周回、月着陸、月極域サンプルリターンなど、月極域探査シリーズを計画している。
○ 中国の嫦娥ミッションや国際月面研究基地構想についても協力を計画している。
○ ISS運用については、ISSのロシア管理区画の機能を強化・拡大し、2024年以降のフライトの自律性を確保する方針が示されており、この一環として、今後、多目的実験モジュールの打上げを予定している。また、2025年にISSへの新型有人宇宙船の打上げを予定する等、2025年以降のISS運用延長も示唆されている。
(5) 中国
○ 2019年に嫦娥 4 号が世界ではじめて月の裏側に着陸し、2020年に嫦娥5 号が月の土壌を採取するなど、月探査「嫦娥ミッション」を段階的に実行し、今後も継続的な探査を計画している。また、地球低軌道活動及び深宇宙探査を見据え、新型有人宇宙船を開発中である。2030年代から40年代を目途に、月南極域に国際月面研究基地(ILRS)の建設を構想している。
○ 月・火星探査を進める一方で、独自の宇宙ステーション(CSS)について、2022年頃までの完成を目指し、今後2年間で、実験等のモジュールや有人
宇宙船「神舟」等の打上げを予定している。また、国連とも連携し、CSSで行う実験について国際的な公募を行い、テーマを選定した。
(6) インド
○ Chandrayaan-2号の月軟着陸失敗を受け、再度着陸を目指すChandrayaan-3号の2021年打上げやJAXAと協働する月極域探査ミッションの推進など、無人での月探査を進める一方で、2022年までの有人宇宙船「Gaganyaan」打上げを目指し、開発を進めている。
○ 2020年代後半に独自の小規模な宇宙ステーションを建設する計画を発表している。

以上

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出典:文部科学省(研究開発局宇宙開発利用課)- 掲載URL

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