ソニーCSLとJAXAは、エラーが発生しやすい環境での完全なデータファイル転送のデモンストレーションに成功しました
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(代表取締役社長:北野宏明 以下、ソニーCSL)および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長:山川宏 以下、JAXA)は、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)(※1)」による共創活動のもと、エラーが発生しやすい低品質な通信環境を模擬した地上実験において、将来の成層圏/低軌道での光通信事業に不可欠な、エラー環境下での完全なデータファイル転送技術の実証に成功し、事業化に向けた技術基盤を確立しました。
成層圏や宇宙など、高高度における自由空間光通信の実用化には、通信機器の軽量化・省電力化や通信の高速化が求められる一方で、長距離にある通信機器間で機体の姿勢変動によって送信側機器の出射するレーザー光を受信側機器で安定して受光できないことや、受信機器内や環境に起因するノイズにより、デジタル信号の符号誤りが多く生じることのため、安定的な通信品質下での利用を前提としている一般的なインターネット通信プロトコル(イーサネット、TCP/IP)が適用できないという課題があります。
低軌道衛星同士や成層圏無人機との間で利用される光インターネットサービス事業の創出を目指す本共創活動では、ギガビットイーサネット回線上に実験的に構築した自由空間光通信の符号誤り率を模擬した低品質で、一般的なインターネット通信による通信が不可能な通信環境において、446Mbps(※2)の通信速度でデータ欠損なく完全なデータのファイル転送に成功しました。この結果はエラーの頻発する自由空間光通信上でも地上のインターネットサービスのような高速通信が可能になることを示唆したものです。
通信には、ソニーグループがブルーレイ等光デバイスで長年培ってきたレーザー光読み取り技術をベースにソニーCSLが開発した誤り訂正(FEC)技術(※3)と、JAXAが保有する遅延途絶耐性ネットワーク(DTN)技術(※4)とを組み合わせた信号処理技術を用いました。
本通信実証の成功により、地球低軌道や成層圏における2地点間の光インターネットサービスに必要となる高速大容量かつ低消費電力での通信の実現に向けた主要課題の解決が見込まれます。今後、低軌道衛星コンステレーション(※5)や成層圏無人機に搭載された小型光端末同士の通信サービスへの事業展開につながることが期待されます。
ソニーCSLとJAXAは、宇宙における通信ネットワークの研究開発を通じて、引き続き、より高品質な通信サービスの実現に向けて取り組んでいきます。
(※1)J-SPARCは、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出するプログラムです。
(※2)コンピュータ間の通信回線に電子回路を挿入することにより低品質な通信環境を人為的に実現。長距離間での微弱な光による高速インターネット通信を想定し、電子回路内で生成したビットエラーレート9.77E-4の疑似ランダムエラー環境において実施した、通信プロトコルとしてTCPを用いたインターネット通信との比較実験による。
(※3)Forward Error Correctionの略称。ソニーCSLの自由空間光イーサネット通信用誤り訂正技術は、宇宙データシステムに係る国際標準化を行うCCSDSにて、予備検討規格(Experimental Specification)として提案中です。また、本技術は、2020年3月に低軌道-地上間の双方向光通信に成功した小型光通信実験装置『SOLISS』(Small Optical Link for International Space Station)での通信技術をベースとしています。 (https://www.sonycsl.co.jp/press/prs20200423/)
(※4)Delay/Disruption Tolerant Networkingの略称。DTN技術は通常のインターネットの通信方式(TCP/IP)の単純適用が困難な通信異常(通信遅延や通信途絶)が生じる通信環境においてもインターネット通信を行うために考案された情報通信技術で、JAXAはISO標準(ISO 21323、ISO 21080)の仕様策定に貢献しています。
(※5)多数の低軌道衛星を協調して運用することにより、新しい価値を提供する衛星システム。
提供:宇宙航空研究開発機構(または JAXA)(出典URL)