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新「VAIO Z」が狙ったノートPCの理想とは? フルカーボンボディとデスクトップ級の性能の真価 -ライブドア


新「VAIO Z」が狙ったノートPCの理想とは? フルカーボンボディとデスクトップ級の性能の真価

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コロナ禍における働き方の変化や、教育の変化は、PC業界に大きな影響を与えている。
テレワークやリモートでの仕事や授業が必要となり、その需要増からPCの出荷台数も大きく伸びたのである。なかでもモバイルPCを含むノート型PCの需要は大きく拡大した。

ここ数年は、スマートフォンの進化と普及によってパソコンやデジタルカメラの市場は縮小していただけに、このような再びパソコン需要が大きくなる現在が訪れることは誰にも予想できなかっただろう。

コロナ禍に関係なく、これまでPCメーカーは様々な働き方を提案していた。ところが、現在のコロナ禍以上に人の意識や生活を変える起爆剤にはならなかったのである。そういった意味では、現在のような大きなイノベーションを生み出すことの難しさを思い知らされる。

筆者の家には新旧あわせると、ノートPCが4台ある。
ハイエンドのデスクトップPCも所有しているのだが、現在は電源を入れることはなく10年以上更新していない。

これにはワケがあり、きっかけは東日本大震災だ。わが家でも、イノベーションが起きたのは生活環境が大きく変わった時であった。
未曾有の被害が発生した東日本大震災だが、幸い関東圏では大きな被害はなかった。
しかし被災地だった筆者の実家ではライフラインが絶たれて、震災の発生時の安否確認ができないまま長い時間を過ごした。

こうした経験から、いざという時にデスクトップPCではデータを持ち出すのも難しい上に、停電が発生するとPC利用ができず、仕事や生存確認などの連絡もできなくなってしまうということを痛感したのである。
当時は突然の停電や輪番停電などもあったことから、今後の災害時では電源が不安定な状況が発生する可能性があり、そうした状況下ではデスクトップPCの電源を入れ続けることが難しいと思い知ったのだ。

災害時に備えた解決策を考えると、
・常用するパソコンを内蔵バッテリーで動作ができるノートPCに切り替える
・データはクラウドに移行する
・自宅やオフィスに居なくても作業ができる
こうした環境を実現できるノートPCを中心とした仕事環境に移行することで、災害は発生した際でも、どこでも作業できるようになった。さらに平時でも場所に縛られることなく、作業場所を自由に選べるメリットにもなった。

今で言うサテライトオフィスやモバイルワークを、すこし早く実践していたと言っても良いだろう。特にライターなどの業種はこの手の働き方には慣れていると言っていいだろう。

つまりテレワークの便利さは、
「会社がそうしろと言ったのでそうしなければいけない」
ではなく、
「自分がワークを改善・効率化できると理解した」
このときに感じるものなのだと思う。

今では、デスクトップPCを使用せずにモバイルノートPCで、
・原稿を書く
・デジカメの現像処理をする
・Webページの制作をする
・ゲーミングノートPCで動画の編集をする
このような用途に合わせた使い分けをしている。


モバイル向けの低電力型のCPUの特徴はベースクロックが低めに設定されている。パフォーマンスが必要な場合は動作クロックを上げることで対応する。

また、ここ数年でノートPC向けのCPUは4コア8スレッド以上のメニーコア化と、スピードも最大で4〜5GHzで動作するようになり、デスクトップPC並に使い勝手が良くなっていることも見逃せない。

現在のモバイルノートPCは、低消費電力と高パフォーマンスのバランスが良く、USB PDによる給電も可能となったことで、USB PD対応のコンパクトなACアダプターとUSB Type-Cケーブルで電源を確保できるようにもなった。
さらに、USB PD対応のモバイルバッテリーから給電しながら利用することもできる。

このようにコロナ禍でのノートPCの需要増と、快適に利用できるノートPCの性能向上という2つのタイミングが合致したことでノートPC市場の活気を取り戻した。

しかし、多くの消費者にとっては急遽必要に迫られたテレワークであったり、リモートであったりを実現するための手段としてノートPCを急いで購入しており、実際にノートPCの進化や製品の善し悪しまで理解してはいないし、気も回ってないように思う。

つまり現在のノートPC需要は、コロナ禍での需要による購入が一巡するとパタッと止まってしまうのではないだろうか。

メーカーは、コロナ禍の需要にフォーカスした「ちょうど良い製品」を推すだけではなく、この先の需要を掘り起こす魅力的な製品開発を行い、コロナ禍ですそ野が広がったユーザーを、次のステップに引っ張っていけるようになって欲しいとも思う。

さてここからは、コロナ禍の需要から次のステップにユーザー引っ張っていける製品づくり、これに取り組んでいるVAIOの新製品について触れていきたいと思う。

今回注目したのはVAIOが今年3月に発売した14インチのディスプレイを搭載したモバイルノートPC「VAIO Z」だ。


これまでVAIO Zは、尖った個性を持つモバイルノートPCであり、VAIOらしさの象徴でもあった。
そして新しいVAIO Zは先代のVAIO Zから5年を経て、VAIOが得意とするモバイルノートPCとしての軽さと堅牢性を、フルカーボンボディを実現したことが目玉のひとつだ。

実は、既に他社からもカーボンやそれに近い繊維素材を使用することで軽量・剛性を高めた製品は存在している。

しかしその多くは、金属フレームとカーボンの天板や底面などを組み合わせて作られている製品ばかりなのだ。
というのも、カーボンは金型などで自由な成形できる樹脂や、機械で加工ができる金属とはことなり、自由成型が難しく手間がかかる素材だからだ。このため加工が少ない一枚板の状態で製品に組み込まれるケースが多いというわけだ。


ところが新VAIO Zは、ディスプレイ面とキーボード面のフレームまでカーボンで作られている、フルカーボン仕様なのだ。

この狙いは、ズバリ軽量化だ。

ディスプレイ面は通常、側面のフレーム(枠)の中に液晶パネルを取り付けて、ベゼルで押さえて天板で蓋をするといった設計をする。
しかし新VAIO Zは、カーボンで天板から側面のフレーム、そしてベゼルまでを立体構造で作られており、そのベゼルの内側に液晶パネルを差し込んで組み立てるという手の込んだ工程で製造されているのだ。


これによって、天板やフレーム、それを固定するためのネジなどのパーツが減り、フレームの折り曲げ加工によって、ひねりや折れといった力に対して強度が増す。軽量化のためにカーボン自体はかなり薄くしているのだが大きなメリットも得ているのである。

一方で、一枚の板から立体的なフレームを作ることが難しい部分もある。
それが角面だ。

ちょっと想像してみて欲しい。
箱は、分解すると底面に繋がった4つの側面で構成されている。
1枚の板を用いて側面を折り曲げて組み上げるだけでは、側面と側面で接合部の「角面」は繋がっていないため強度がなく、箱はすぐに折れてしまう。

この角面を1枚の板を折り曲げて作れれば、角の強度を高めることができる。


新VAIO Zは、この手法を側面のパーツ設計で折り曲げを実現している。
ただし、折り曲げたヒゲの部分と天板で交わらない角ができてしまうため、そこを切り抜いた構造にして、金属のオーナメントを埋め込んでデザインのアクセントとすることで解決している。

折り曲げたヒゲの部分と、隣接するもう一つの側面のパーツが交わる部分に職人たちの苦労が見える。

カーボンの強度とそして軽さはモバイルノートPCに最適であることは間違いない。
金属や樹脂パーツを組み合わせたこれまでの製品では、傷や凹みなど素材の特性から劣化が気になるのだが、フルカーボンなら表面の塗装にキズがつく程度で済む。
経年劣化にも強いのは、大きなメリットである。


筆者の経験上でも、マグネシウムやアルミ製のノートPCを撮影現場や録音現場などに持ちこむと、ほかの機材との接触や圧などで傷や凹みが多く発生する。今使っているモバイルPCがまさにそれで、1年も経っていないのに見た目がボロボロとなっている。

VAIO Zを触ってみて、今後はカーボン素材を主とした製品を選ぶことが精神衛生上にも良いのではないかと感じている。

新VAIO Zは、このフルカーボンボディのほかに、もう一つ注目すべき点がある。
それは、モバイルノートPCでありながら、低電力型のモバイル向けのCPUではなく、ひとつ上のラップトップ向けのCPUを搭載していることにある。

通常のモバイルノートPCは、軽量であることを最優先とし、それが特徴となっている。
軽量化のため、バッテリー容量やファンレスなど冷却機構をギリギリまで削って設計される。そのため使われるCPUも発熱が少ないTDP15Wの低消費電力型を搭載することが最適解となる。

新VAIO Zも、このTDP15WのCPUを搭載すれば軽量化をさらに推し進めることが可能であったと思うのだが、尖った個性を目指す新VAIO Zはそうしなかった。
フルカーボン化で軽量化したマージンを、冷却のために銅製のヒートパイプと2つのファンを搭載すること使うことで、TDP35Wのラップトップ向けCPUを駆動させるというブレイクスルーを起こしたというわけだ。


第11世代Core i7-11375Hを搭載するモデルは、ベースクロックが3.3GHzと高く、ターボブースト時には5.0GHzで動作する

モバイル向けのCPUとラップトップ向けのCPUの違いとは「TDP(熱設計電力)」だ。
大きな電力を得て動作した際の最大のパフォーマンスの差である。

一方で、アイドリング状態や高いパフォーマンスを必要としない場合は、どちらもパフォーマンスを抑えて低い電力で動作する。

つまりピーク時のパフォーマンスを実現するための熱処理と電源対策ができれば、ハイパフォーマンスのモバイルノートPCを生み出せるということを証明して見せたのである。

新VAIO Zが搭載するCPUはインテルの第11世代「Core i」シリーズで、最大の特徴がGPUを強化した「インテル Iris Xe グラフィックス」を搭載していることにある。
これまでもGPUを強化したCPUがあったが、さらに性能を向上させゲーミングPCをも想定した製品である。

とは言っても、ゲーミングPCとして要求されるGPU性能は非常に高いため、Iris Xeがその性能を十分に満たすほど高いとは言い難いのだが、それでも従来の製品よりは性能が向上しているのは確かである。

つまり、VAIO Zは高いCPUパフォーマンスとGPU性能でオフィス業務やテレワーク、リモートなどを快適に実現できるほか、クリエイティブな業務までこなせるワンランク上のモバイルノートPCとなった。


CineBenchの結果はデスクトップ向けの第7世代Core i7-7700Kを超えた。TDP28WでTDP91WのCPUを超えるため、省エネにも繋がる

さて、ここで従来のVAIO Zを知っている方なら
「それってVAIO Zの立ち位置なの?」
こうした疑問を持つかも知れない。

これまではペンやタッチ操作などクリエイティブな要素を全面に押し出した、まさに憧れのノートPC、それがVAIO Zだった。
ところが新VAIO Zは、尖ったコンセプトが押さえられて思ったよりも丸くなった印象を受けるからだ。

旧VAIO Zが終了した5年前と現在とでは、状況が大きく変わっている。
クリエイティブ作業で求められる要素が、動画編集を含めたもっとパフォーマンスを必要とする方向に広がっているのだ。

そこで新VAIO Zは、外に持ち出せる軽さと堅牢性に加えて、自宅のPCと遜色ない高いパフォーマンスが引き出す。
これでクリエイティブ用途にも十分に対応できる。
これが新VAIO Zの真のコンセプトなのではないかと解釈している。

その堅牢性・軽量さ、そしてパフォーマンスは、クリエイティブ用途でも注目されはじめているAppleのM1チップを搭載した「MacBook」も視野に入れた製品であることは発表会で触れてられている。

新VAIO Z(試作機)の特徴を動画で紹介

動画リンク:https://youtu.be/GjAf4Z8B81Y


新VAIO Zは、片手で軽々と持ち運べる高い強度のカーボン筐体を実現し、高いパフォーマンスのCPUを搭載した。
派手さはないが、オフィスワークだけでなく、自分の趣味やクリエイティブな需要にも応えられる憧れのノートPCであることは間違いない。

筆者も、現在、傷や天板の凹みが目立つ旧世代のモバイルノートPCを使いながらそれを実感している。

執筆  mi2_303



提供(C)ライブドアニュース

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